メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

なあなあの原子力体制(3)――多数決こそデモクラシーという倒錯

三島憲一

三島憲一 大阪大学名誉教授(ドイツ哲学、現代ドイツ政治)

規則の遵守と利益誘導は矛盾しない――エリート支配の根本

 利益誘導も共同防衛も、先に触れた儀式も、いわゆる「汚職」や「権力の濫用」とは無関係で、法に依拠して定められた複雑な規則を丁寧に守っていることが厄介な点である。これらの全体を司っているのが、本省や大企業のエリートたちである。先にデモクラシーの不在と言ったが、馴れ合いデモクラシーと言った方がいいかもしれない。この「なあなあデモクラシー」に君臨しているのが、こうした一握りの「優秀な」エリート集団である。彼らは国民を馬鹿にしきっているが、よほどのへまをしないかぎり、つまりエリートとして落第でないかぎり、そのことは悟らせない。

 彼らは、暴論で村人の血を搾り取る悪代官ではない。ちゃんと国民にも利益を共有させる。きわめて複雑な現代社会のなかで、多くの国民の片隅の幸福と消費の快楽抜きには、自分たちも安泰でないことは熟知している。同じ市民でもあるところが難しい。

 彼らは個々のことがらにそれほどくわしいわけではない。現在の原子力保安院担当の西山英彦審議官も法学部出身である。しかし、全体の複雑な組織を動かすすべを知っている。動かしながら利益を適度に配分し、誘導する術である。同時に自己保存をまっとうし、いささかの富と権力とかなりの安定を得る渡世術である(歴代の保安院のトップは、原子力が専門ではない事務系官僚の素人集団であることについては、http://j.mp/f55Lh0参照)。

 政治家とエリート集団と専門家――この柔構造的エキスパートクラシー、砕いて言えば、いわば馴れ合いデモクラシーである。このシステムが半世紀を超える自民党中心の政治のなかで社会の隅々にまで広まってしまった。私が長いこと見て来た大学もその例外ではない。 ・・・ログインして読む
(残り:約1196文字/本文:約1935文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

三島憲一

三島憲一(みしま・けんいち) 大阪大学名誉教授(ドイツ哲学、現代ドイツ政治)

大阪大学名誉教授。博士。1942年生まれ。専攻はドイツ哲学、現代ドイツ政治の思想史的検討。著書に『ニーチェ以後 思想史の呪縛を超えて』『現代ドイツ 統一後の知的軌跡』『戦後ドイツ その知的歴史』、訳書にユルゲン・ハーバーマス『近代未完のプロジェクト』など。1987年、フィリップ・フランツ・フォン・ジーボルト賞受賞、2001年、オイゲン・ウント・イルゼ・ザイボルト賞受賞。

三島憲一の記事

もっと見る