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対テロ戦争を念頭に置いた新たな国際人道法秩序を

水田愼一

水田愼一 水田愼一(三菱総合研究所海外事業研究センターシニア政策アナリスト)

 米国によるビンラディン殺害が国際法上合法か否かが議論になっている。合法、違法それぞれの主張が聞かれるものの、どちらともいえない「グレーゾーン」であるというのが筆者の理解である。というのも、現在の国際人道法(注)は、昨今の「対テロ戦争」を念頭に置いた内容となっておらず、今回の事件に関わる判断も解釈の域を出ないからだ。

 ビンラディン殺害が国際法と照らして合法であるとの主張の論拠は概ね次の通りである。米国は、2001年9月11日の同時多発テロを受けて、国連憲章で認められる「自衛権」発動の結果として、国際テロ組織アルカイダと戦争を開始した。この自衛権行使は国連安保理決議によっても支持されている。

2001年6月にクウェート紙が入手した、銃を構えるオサマ・ビンラディン容疑者の映像=ロイター
 このような経緯から、米国はアルカイダとの間で現在「交戦状態」にある。ビンラディンはアルカイダのリーダーとしてテロ活動の計画・指揮にあたっており、国際人道法に定める「戦闘員」にあたるため、ビンラディンを殺害することは合法である。また、今回の作戦はパキスタン領土内で行われたが、同国政府とも連携しつつ進められてきたため、同国の主権は侵害していない。

 この主張に関する最大の争点の一つは、アルカイダが国際人道法上の「交戦者」にあたるかどうか、ビンラディンが「戦闘員」にあたるかどうかという点にあるだろう。ビンラディンは殺害された時、戦場と呼ぶには程遠い閑静な住宅街の邸宅におり、しかも非武装であった。現行の国際人道法は、国境を越えてテロ活動を行うアルカイダのような組織やその構成員であるビンラディンのような者を、交戦者、戦闘員として想定した法文規定を有していない。

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