川村陶子(かわむら・ようこ) 川村陶子(成蹊大学文学部准教授)
成蹊大学文学部准教授。1998年、東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学(国際関係論)。国際関係における文化・文化交流に関心を持ち、対外文化政策や国際交流活動、〈ひと〉の視点でみた国際関係をテーマに研究教育活動を行っている。共著に『日本の国際政治学』(有斐閣、2009年)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
川村陶子
震災のショックが日本を覆っていた3月半ば過ぎ、ドイツでは、ヴェスターヴェレ外相が「戦後ドイツ外交最大の失敗」を非難するメディアの攻撃にさらされていた。その失敗とは、リビア上空に飛行禁止区域を定め、文民保護のために必要なあらゆる措置を容認する国連安全保障理事会決議1973に対して、安保理非常任理事国のドイツ代表が棄権票を投じたことである。
西ドイツ建国以来、ドイツは米国を中心とする西側同盟の結束を重視すること、突出行動で西ヨーロッパ近隣諸国を刺激しないことを、外交・安全保障の絶対原則としてきた。しかし、今回の安保理決議1973については、英仏が先導する決議案に米国が賛成したのを尻目に棄権へと回った。
ドイツのヴィッティヒ国連代表は、投票にあたって、リビアへ軍事力を行使することによってむしろ犠牲者が増え、紛争地域が拡大する危険性があるとコメントした。しかし、メディアや外交筋、国連関係者は、ドイツの棄権は3月末の地方選挙をにらんだ決定であったとの見解で一致していた。
ヴェスターヴェレ外相が当時党首を務めていた自由民主党(FDP)は選挙戦で劣勢が伝えられており、外国への軍隊派遣に消極的な有権者の心情を汲んで棄権を選んだというのである(ちなみに実際の選挙では原子力政策が中心的争点となり、原発の早期廃止に消極的なFDPは惨敗、ヴェスターヴェレは党首退任を余儀なくされた)。