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対応を間違えれば世界中が日本を突き放す

薬師寺克行

薬師寺克行 東洋大学社会学部教授

 原発事故を前に打ちひしがれている経済産業省をはじめ、霞が関各省は震災対応に忙殺されている。そんな中、農水省だけがやたらと元気がいいそうだ。被災地の農林水産業は甚大な被害を被った。復興のため大幅な予算増が見込める。削減が続いた農業土木の久しぶりの出番でもある。しかし、理由はそれだけではない。

 4月21日、菅首相はオーストラリアのギラード首相と会談した。焦点の一つが日豪経済連携協定(EPA)交渉だった。経済産業省や外務省など自由貿易促進派は、首脳会談で日豪EPA交渉の大筋合意を目指していた。この合意を梃子に、アメリカなど9カ国が進めている環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉への参加に弾みをつけようとしていた。

 ところが震災を受けて、農水省が猛反撃に出た。首脳会談前の調整で「二国間のEPA交渉を促進するという政府の基本方針は撤回すべきだ」「被災者のことを考えれば農業の市場開放などもってのほか」などと主張し、一切の譲歩を拒否すべきだと主張した。菅首相をはじめ政権中枢は震災対策に追われており、推進派の後押しができないまま会談本番を迎えた。豪州政府は大筋合意が無理だとしても、合意に向けたスケジュールをはっきりさせたいと要求したが、国内の足並みの乱れを受けて菅首相は踏み込んだ発言はせず、結局、「妥結に向けてさらに交渉を行うことを確認した」にとどまった。

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