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ドイツ、脱原発への道(上)――州首相を生んだ緑の党の学習過程

三島憲一

三島憲一 大阪大学名誉教授(ドイツ哲学、現代ドイツ政治)

 原発事故はドイツでも派手に報道された。おりから南ドイツの重要な州であるバーデン・ヴュルテンベルク州の選挙直前ということもあった。原発事故の直前、同州では、戦後一貫して政権にあった保守のキリスト教民主同盟が緑の党の挑戦にあって危機に瀕していた。

 主な理由は、ベンツで有名なダイムラー社や電気のボッシュ社など代表的企業の集中する州都シュトットガルトの中央駅の、巨額の金をかけた大改装計画への反対運動だった。資本の論理だけの改装計画に市民が「まった」をかけ、大きなデモが続いていた。それに原発事故が火に油を注いだ。企業中心の巨大システムへの不信は、保守市民層にすら根強い。

独バーデン・ヴュルテンベルク州シュツットガルトで5月12日、州首相就任にあたり宣誓する緑の党のウィンフリート・クレッチュマン氏=ロイター
 おまけに連邦政府のメルケル首相は、昨秋に古くなった原発7基の運転期間延長を決めていた。保守党政権であるから、経済界の圧力に押されてである。これには緑の党の支持者たちが怒った。

 というのも1998年に社会民主党と緑の党の連立政権ができてから、緑の党の環境大臣トリッティ―ン氏が中心になって電力会社との数年におよぶきびしい交渉の結果、原発からの、20年ほどかけての長期的な撤退が決まっていた。その約束をメルケル首相が撤回したからである。

 期間延長の法案を審議する連邦議会で緑の党の議員は、「メルケルさん、あなたは本当によく話し合ってくれました。でも、国会でではなく、電力会社首脳と秘密の場所で沢山話し合ってくれましたね」と皮肉たっぷりに反対演説をするしかなかった。議席の数で適わない以上、仕方ない。

 福島の事故に驚いたメルケル首相は、運転期間の延長を認めていたはずの原発のとりあえず3ヶ月の停止を決めた。今度は経済界が昨秋の約束を破ったと怒った。その間に経済大臣が、経済界首脳との会談で、「選挙対策だからしばらく我慢してくれ」と述べたが、この外に漏れないはずの発言が漏れてしまった。怒ったのは、毎日フクシマからのニュースに心を痛めている市民である。

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