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新連載【北欧エネルギー事情<1>】スウェーデン・バーセベック原発訪問記

脇阪紀行

脇阪紀行 大阪大学未来共生プログラム特任教授(メディア論、EU、未来共生学)

 <序論>

 4月末から5月にかけて、北欧デンマークとスウェーデンに旅をした。原子力発電や自然エネルギーの現状、電力自由化政策への評価を取材し、さらには各地のエコタウンを訪ね、その取り組みを見てきた。

 一直線に自然エネルギーへの道を突き進もうしているのがデンマークだ。風力とバイオマスを中心とする自然エネルギーを劇的に増やし、2050年には、石油や石炭、天然ガスといった化石燃料からの脱却をめざすという野心的な戦略目標を2月に公表した。

 かつて「脱原発」の旗を掲げたスウェーデンは、2基の原発の運転停止と閉鎖に踏み切った。今の中道右派政権は「脱原発」の旗を降ろしたが、原発の数を現行の10基に抑える抑制姿勢を続けながら、自然エネルギーの拡充を図ろうとしている。

 とはいえ、その道のりは平坦ではない。

 デンマークは、大型風力発電機の開発や蓄電池の利用など、技術開発の課題を抱えている。スウェーデンも電力生産量の約4割を原発が占め、すべての原発を今すぐ止めるわけにはいかない。

 北欧がゆうゆうと先を走っているわけではない。ばたつきながら、それでいて、格好悪い姿をあまり世界に見せずに、一歩一歩前に歩もうとしているのだ。

 福島第一原発の事故を受けて、菅直人首相は、日本のエネルギー政策を白紙に戻して、考え直すことを表明した。風力や太陽光といった自然エネルギーによる発電を2020年代のできるだけ早い時期に全発電量の20%に引き上げるという。「国策民営」を錦の御旗に原発を推進してきた戦後日本の歴史上、大きな政策転換だ。

 欧州諸国は、「持続可能な発展」や地球温暖化の防止策を地道に追求してきた。欧州の中でも北欧はその先頭集団を作っている。

 連載では、スウェーデン政府が閉鎖に踏み切ったバーセベック原発の訪問記から始め、「脱原発」政策がその後どのような変化を遂げてきたのかを追う。次に、脱「化石燃料」の目標を掲げるデンマークでの取り組み、さらにはスウェーデンのエコタウン作りの魅力的な姿を伝え、EUのエネルギー政策についても触れていきたい。

 これまで北欧の取り組みは、ともすればバラ色の理想像として描かれることが多かった。しかし理想の裏に隠されている現実を知り、その苦悩や矛盾を知ってこそ、その真の姿に近づけるのではないだろうか。それは震災後の日本の復興と再生を考える絶好の材料になるはずだ。

「脱原発」による閉鎖決定

 スウェーデン南端、人口30万の都市マルメから車で約30分。高圧送電線の張られた鉄塔と鉄塔との間を斜めにくぐり、海岸の方へ走ると、やがて、薄黒く、角ばった原子炉建屋が目の前に現れた。細い煙突の形をした2本の排気塔が空に向かって突き出ている。バーセベック原子力発電所だ。

 車を降りて、検問所を通り、事務所へと1人、徒歩で向かう。空は抜けるように青く、白雲が浮かんでいる。目を原子炉建屋に向けると、柱の監視カメラがこちらの方を向いているのに気がついた。 ・・・ログインして読む
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筆者

脇阪紀行

脇阪紀行(わきさか・のりゆき) 大阪大学未来共生プログラム特任教授(メディア論、EU、未来共生学)

1954年生まれ。79年に朝日新聞社に入社、松山支局などを経て大阪本社経済部に。90年からバンコクのアジア総局に駐在。米国ワシントンでの研修を経て97年からアジア担当論説委員。2001年からブリュッセル支局長。06年から論説委員(東南アジア、欧州など担当)。2013年8月末に退社、9月から、大阪大学未来共生イノベーター博士課程プログラム特任教授。著書に『大欧州の時代――ブリュッセルからの報告」(岩波新書)、『欧州のエネルギーシフト』(岩波新書)。

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