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【北欧エネルギー事情<7>】 フィンランド編(その1)――「原発ルネサンス」の旗手の苦闘

脇阪紀行

脇阪紀行 大阪大学未来共生プログラム特任教授(メディア論、EU、未来共生学)

 これまで「北欧エネルギー事情」として、まずスウェーデンの原発や再生可能エネルギー政策の実情を見てきた。環境意識が高く、かつて「脱原発」を国民投票で選んだ国でありながら、その後、軌道修正をし、いまは、再生可能エネルギーを伸ばしつつ、原発については民間のコスト判断にまかせる「原発抑制」路線を進んでいる。

 さて今回からは、北欧にあって原発を推進しているフィンランドを取り上げよう。原発の建設停滞の空気を打ち破って、建設に乗り出し、「原発ルネサンス」の旗手ともされるこの国は、一方で、厳格な原発の安全性を追求し、「核のゴミ」の直接処分場の建設にも取り組んでいる。その苦闘する姿、取り組みの成否は、これからの世界の原発の行方に大きな影響を与えるのは間違いない。

●21世紀の「原発神殿」

 イスラム寺院を連想させるような坊主頭の巨大なドームである。

拡大オルキルオト
 フィンランド南西部、ボスニア湾に面するオルキルオト島。

 この小さな島でいま、世界最大級のオルキオト原子力発電所3号機が建設の真っ最中にある。フランスの原子力大手アレバ社が請け負い、「世界で一番安全な原発」というのがうたい文句だ。

深く切れ込んだ入り江に立つと、300メートルほど先の対岸に、1号機と2号機の赤茶色の原子炉やタービン建屋が見える。海に近い一番左手が建設中の3号機だ。

 運転開始の予定は2013年。2基の原発がすでに稼働するこの島は、フィンランド最大の「エネルギー基地」と言っていいだろう。国会は2010年、新たな4号機の新設計画を承認した。

拡大オルキルオト3号機(左)と2号機、3号機=筆者撮影
 オルキルオト原発3号機の格納容器の高さは約60メートル。丸天井を持つドームの周りを、タービン建屋や安全施設の四角い建物が囲んでいる。ボスニア湾を航行する船の乗組員の目にはさながら、原子力エネルギーを奉る21世紀の「原発神殿」と映るに違いない。

 その坊主頭に取りすがるかのように、黄色に塗られた建設用のクレーンがにょきにょきと地上から突き立ち、鉄骨や機器を原子炉に運んでいる。土日もなく、24時間の突貫工事を続ける現場には、ポーランドなどの外国人を含め、数千人の労働者が日夜働き続けている。

 原発を所有、運転するTVO社(Teollisuuden Voima Oyi)の女性エンジニア、カテ・サルパランタさんの案内で、一気に階段を上がって格納容器の6階部分に上がった。高さ40メートルの最上階にぽっかりあいた工事用の横穴の向こうに、ボスニア湾の島々の姿が目に入る。

拡大工事中の3号機格納容器のドーム=筆者撮影
 「あと30分で、昇降用のモーターを地上に降ろすところだった。ラッキーだぜ」

 ヘルメット姿の現場監督が、ブルブルというエンジン音が鳴る中を近づいてきて、耳元でどなった。ドームの天井には、むき出しになった鉄骨が見える。格納容器の何千トンもの重量を、声を出さず、歯を食いしばりながら懸命に支えているようだ。

 2002年5月、フィンランドが原発の新設を決めたニュースは世界に波紋を与えた。チェルノブイリ原発事故によって先進諸国は原発建設に及び腰になっていた。その雰囲気を打ち破るものだったからだ。

 オルキルオト原発3号機は、出力160万キロワットの欧州型加圧軽水炉(EPR)と呼ばれている。アレバ社が原子炉部分、ドイツの重電大手シーメンス社がタービンなど発電部分を担当することで契約が結ばれた。設計上の原子炉耐用年数は60年と、世界最長の水準だ。

●フランス、中国でも建設中

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筆者

脇阪紀行

脇阪紀行(わきさか・のりゆき) 大阪大学未来共生プログラム特任教授(メディア論、EU、未来共生学)

1954年生まれ。79年に朝日新聞社に入社、松山支局などを経て大阪本社経済部に。90年からバンコクのアジア総局に駐在。米国ワシントンでの研修を経て97年からアジア担当論説委員。2001年からブリュッセル支局長。06年から論説委員(東南アジア、欧州など担当)。2013年8月末に退社、9月から、大阪大学未来共生イノベーター博士課程プログラム特任教授。著書に『大欧州の時代――ブリュッセルからの報告」(岩波新書)、『欧州のエネルギーシフト』(岩波新書)。

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