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【北大HOPSマガジン 北海道から何を発信するか】 領土、利益、平和――北方領土から日本外交を考え直す

遠藤乾(国際政治)

遠藤乾 遠藤乾(北海道大学大学院法学研究科・公共政策大学院教授)

 北方領土の問題は、竹島同様、いまも必要以上に日本外交を呪縛している。これが妥協の可能な程度の問題でなく、領土の一体性という原理原則の問題なのだという主張は根強い。問題の起源や旧島民の存在も考えると理解もできる。しかし、国際情勢が変わる中、日本の利益や東アジアの平和の観点からこの問題を真剣に再考すべき時期に来ているのではなかろうか。

 この間の国際環境の変化は明らかだ。大震災の陰に隠れてしまったが、2010年の一大テーマでいまだに消えてなくならないのが尖閣列島をめぐる中国との対立である。この背後には、生産力や軍事力をはじめとしたパワーの指標において、中国が興隆しているという基本的事実がある。これを背景に、同国はいつの時点かに何らかの経緯で「喪失」したと見なす領域を「回復」する意思があることを、世界中に知らしめた。このいわゆる領土的な野心は、尖閣のみならず、より熾烈な形で南沙・西沙諸島においても繰り広げられている。

納沙布岬(手前)の先に見える北方領土の歯舞群島
 さらに、この状況を横目で見つつ、メドベージェフ大統領をはじめ、ロシアの政治指導者が近年次々に北方領土を訪れている。よく見ると、歯舞・色丹という小さな島でなく、国後・択捉という大きな島への訪問であるが、この事実は、橋本龍太郎首相とエリツィン大統領が領土問題の解決に最も近づいた前世紀末と比べると、日ロ関係の冷却化を物語る。

 北方領土問題の起源も、その後の細かい経緯も、ここでは問わない。ひとつ明確なのは、

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