中島岳志(南アジア地域研究、日本思想史)
ホームレスにとっては、真冬の夜をどう乗り切るかが生存の問題に直結する。とにかくマイナス10度の中で暖をとることが出来なければ凍死してしまう。かといって暖かい寝床を確保するのは難しい。地下街も終電直後から始発の時間まで閉じられてしまう。
では、どうするか。
彼らの多くは、夜中じゅう、街を歩き続けるのだ。止まると死の恐怖が襲ってくる。とにかく歩き続けることが体温を保つ唯一のすべなのだ。
そんな過酷な状況の中でホームレスは生きているのだが、一方で市民の多くは「札幌にはホームレスはほとんど存在しない」という認識を共有している。もし存在したとしても例外的な話で、大きな問題だと考えていない人が多い。
なぜ、200人ものホームレスが存在しながら、「ホームレスは存在しない」という認識が広まるのか。
それはホームレスが不可視の存在に追いやられているからである。
札幌のホームレスは、一様に小奇麗な身なりをしている。一見するとホームレスだとは分からない人が大半だ。
その原因の一つは、ホームレスの総数が200人規模だと、支援物資が広く行き届くという現象がある。衣類などの支援物資の総数と、ホームレスの総数が一定程度、釣り合っているのだ。
しかし、ホームレスの人たちと話をしていると、別のことに気づかされる。
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