古賀茂明(経産省大臣官房付) 聞き手:一色清(WEBRONZA編集長)
2011年08月17日
■古賀茂明(こが・しげあき) 1955年生まれ。80年、東大法学部卒業。同年、通産省(現・経産省)に入省。2003年、産業再生機構執行役員。経産省の経済産業政策局経済産業政策課長などを経て、08~09年に国家公務員制度改革推進本部事務局の審議官を務めた。
――昨年8月の最初のインタビュー「公務員制度改革は、こうあるべきだ!」(9月2日掲載、※1)では、公務員制度改革全般について古賀さんのお考えを伺いました。また、同年11月29日掲載「事業仕分けと天下りにみる官僚のテクニック」(※2)では、官僚組織のレトリックについて伺いました。前回、今年2月25日掲載「"平成の開国"と税・社会保障改革のゆくえ」(※3=)では、当時話題だった「税と社会保障の一体改革」とTPP(環太平洋経済連携協定)参加について、古賀さんに解説していただきました。今回は4回目のインタビューとなりますが、前回までと大きく違うのは東日本大震災と東電の原発事故が起きたことです。
※1=http://astand.asahi.com/magazine/wrpolitics/special/2010111100010.html
※2=http://astand.asahi.com/magazine/wrpolitics/special/2010112900021.html
※3=http://astand.asahi.com/magazine/wrpolitics/special/2011022500010.html
まずは、古賀さんの現在の状況について毎回お聞きしていますが、6月24日に経産省の松永和夫事務次官から退職勧奨を受け、「7月15日までに」と言われたという報道がありました。
「退職には色々な手続きが必要なので、間に合わなくならないように早く決めるように」というのです。私は退職したことがないのでよく分からないのですが(笑い)、もう一つ、「何か言いたいことがあるのであれば(海江田)大臣はいつでも会うと言っている。アポを取るように」とのことでした。こちらについても「少し考えさせて下さい」と答えたのですが、6日のうちに次官や大臣にメールを出しました。
まず、「『早く決めるように』と言われたが、そうであればお断りするしかない」という内容のメールを次官に送りました。また、大臣にお会いするかどうかについては、6日の国会審議で大臣が相当に厳しい表現で「勤務時間中にテレビ出演した」と私のことを批判しました。
ところが実際には勤務時間に出演したことはありません。私の職場は9時半から勤務が始まりますが、「モーニングバード」(TBS系)など朝の番組はそれに重ならない時間帯です。「TVタックル」(テレビ朝日系)も土曜収録や平日夜の生放送ですから問題はない。「朝まで生テレビ」(同)も深夜です。1回だけ平日の昼間に「ワイドスクランブル」(同)に出演しましたが、これも昼休みの時間帯でした。恐らく、事務方からそうした間違ったネガティブ情報をインプットされたんでしょうね。
ですから、大臣には「まだ1回もお会いしたことも話したこともないのに、いきなり事実関係と違う誹謗中傷に近いことを国会の場で言われて非常にショックです」とメールしました。「お会いしても一方的に罵倒されて終わりになるかもしれないので、お会いすることに意味があるのかどうか考えています。白紙の状態で会っていただけるのであればお願いするかもしれません。ただ、お会いした後に中傷されるのも困るのでフルオープンでお願いしたい」とも記しました。「いずれにしても答弁を聞いて心が千々に乱れておりますので、来週、少し落ち着いたらアポをお願いすることになると思います」と、大臣にお会いするかどうかの返事も先延ばしにしました。
――7月15日の退職を断った後、先日、大臣と会ったそうですね。
古賀 7月28日に大臣と会いました。そもそも、霞が関の幹部職員ならクビにすること自体はあってもいい話だと私は思っています。でも、幹部をクビにする際のルールはきちんと作らなければならないし、守らなければならない。それを事務次官など事務方の好き嫌いで呼びつけて、大臣の名前を使って3週間後にクビにできるようになってしまうとすれば「官僚主導も極まれり」です。次官に直言したら省内の誰であってもクビを覚悟するしかないのでしょうか。ある程度の猶予期間を置くとか、大臣自身が最低限1回は面接してじっくり言い分を聞く、人事の責任を明確にするといったルールは必要でしょう。私自身はどこかのタイミングで辞める覚悟もできているのですが、後に残る人たちのことを考えると悪しき前例を残すのは避けたい。
――古賀さんの場合は勧奨退職ですから、形式上は自発的に辞める格好になりますね。
古賀 そうです。「退職は嫌だ」と言って居残る選択もあるのですが、そうなると泥仕合です。当局が「働かせたくない」と言っているのに無理に残っても、今のような閑職に追いやるだけでは済まない。もっと意地悪がエスカレートするだけで建設的ではないでしょう。
●省内の若手が「辞めないでください」と声をかけてくれる
――でも、菅総理が退陣して新政権が近々、誕生することになります。古賀さんの処遇は、そうしたポスト菅政権の行方とリンクする可能性はないでしょうか。つまり粘り続ければ職場復帰の道があるのではないでしょうか。
古賀 うーん、でも先々の政権がどうなるかと考えても、全く予想はつかないですよね。次の総理が誕生したからといってそれで事態が変わるかどうか。良くなるか、悪くなるかも全く分かりません。政権の行方を見極めながら待っていると、いつまでもこのままの状態が続くことになります。余り精神的に愉快な状態ではないので、早めに判断した方がいいんじゃないかと個人的には思っています。
ただ、一つだけ気持ちが揺らぐのは、省内の若い人たちが何人も「辞めるな」と声をかけてくれることです。もちろん「頑張ってください」という人は年代を問わず今までもいましたが、最近は、わざわざ熱がこもった感じの強い言い方で「辞めないでください」と言いに来てくれる。「僕らも職場で言いたいことが色々あるのですが、なかなか古賀さんみたいには言えない。それでも古賀さんみたいな人がいれば僕らも頑張ろうという気になりますが、古賀さんがクビを切られたとなると、みんな元気がなくなってしまう」という。こういう言い方をされると「ああ、もう少し頑張らなくちゃいけないのかな」と心に響きます。
そうした声援は経産省の省内に限らずいただいいて、さすがに「古賀君を守る会」という呼称はお願いして避けてもらったのですが、超党派の政治家の方々が「日本中枢を再生する勉強会」を立ち上げました。その中には、自民党やみんなの党だけでなく民主党の先生方もいます。別の会にも15人ほど集まっていただきました。ツイッターなどウェブでコメントやお手紙を下さる方々も含めてみなさん「辞めるな」とおっしゃるので、すぐに辞めるわけにはいかない。ある程度、「よく頑張った、もういいよ」と言われるまでやってみようかとも思います。ただ、残っていても展望がないのに意地を張って残るという道は避けたいと思っています。
――退職後について、具体的な展望はお持ちですか。
古賀 今は、マスメディアでお話しさせていただく時も「現役官僚」という立場が売りになっているように感じます。そうした立場でなくなった時に初めて、肩書のなくなった「古賀茂明」の個人としての実力が分かる。もちろん退職直後は色々と声がかかるでしょうが、数カ月たってひと段落ついたところで、自分がどれくらいできるのかが見えてくると思います。収入が今より減っても生活できればいいとは思っています。
でも今の立場と状況では相当、ニーズが水増しされている。それが落ち着いたところで、普通の仕事を探すか、個人として発信していくのか見極めようと思っています。ただ、ボランティアとしてやるのか、(経産省を退職した政策コンサルタント)原英史さんのようにビジネスとしてやるのかは別にしても、色々な変革をもたらす政策づくりに何らかの形でかかわっていきたいですね。
――私の予想では、大学やシンクタンク、政治の世界などから古賀さんに、既に声がかかっていると思うのですが。
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