佐藤優
2011年08月20日
しかし、菅氏の努力は空回りし、命懸けの努力も日本の社会と国家を強化する効果をもたらさなかった。なぜだろうか。
筆者の理解では、菅氏はナルシシズムという罠にはまってしまった。フランスの著名な歴史人口学者で、フランス国立人口統計学研究所の幹部であるエマニュエル・トッド氏は2008年10月に上梓した『デモクラシー以後』で、ナルシシズムが、欧米の政治エリートの間で流行していることについて警鐘を鳴らし、こう指摘した。
<ナルシシズムという概念は、三〇年前にアメリカ合衆国で姿を現わし、現在のフランスでは至る所で見かけるようになったが、それは描写をするだけで、説明ということをしないのである。教育水準の上昇からは、己の責任性を自覚した、本当に上質な新たな上層階級、すなわちいつでも全体のために献身する構えの数百万人の哲人たちが出現すると期待することもできたはずである。ところがわれわれが現に目にしているのは、内側に破裂した上層集団、すなわち、宗教からもイデオロギーからも無縁になり、獰猛なまでに己自身を気にかける、バラバラの個人の群なのである。彼らは肉体的、性的、美学的自己実現への執念に駆り立てられている。>(エマニュエル・トッド[石崎晴己訳]『デモクラシー以後――協調的「保護主義」の提唱』藤原書店、2009年、123頁)
菅氏はまさに新自由主義が産み出した、<宗教からもイデオロギーからも無縁になり、獰猛なまでに己自身を気にかける、バラバラの個人の群>に属する1人である。菅氏は、神やユートピアなど人知を超える事柄を信じない。
このような超越性を欠いた人間の多くは、
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください