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熱烈な愛国心と恒常的な恐怖――失われたアメリカの自由

金惠京(ハワイ大学韓国研究センター客員教授)

金恵京 日本大学危機管理学部准教授(国際法)

 2011年8月23日、ワシントンDCをマグニチュード5・8の地震が襲った。同地はほとんど地震等の自然災害が起こらないと考えられていたため、住民はその揺れが何なのかを理解できず、一時パニックに陥った。その際、行政機関に勤務している私の知人をはじめ、各所で「テロだ!」「隣のビルに飛行機が突っ込んだんだ!!」との声が上がり、大勢の市民が外に飛び出した。

 地震に慣れた日本人からすれば、これは滑稽に映る反応かもしれない。ただ、現在、アメリカ市民が未知の恐怖に晒された場合、反射的にテロを連想してしまうことも、極めて自然な対応なのである。9・11同時多発テロから10年が経ちながら、アメリカ市民は常にテロを意識している。果たして、9・11同時多発テロはアメリカ社会に何を残し、何を問いかけているのであろうか。

拡大9月11日、ニューヨークで開かれた米同時多発テロの追悼式典=ロイター

 現在、アメリカ市民がテロを恐れる直近の背景は、本年5月にビン・ラディンがアメリカ海軍特殊部隊により殺害されたことである。アルカイダが報復を行うのではないか、という恐怖は事件を伝えたニュースを見た瞬間、私も直観的に感じた。

 しかし、多くのアメリカ市民がそのニュースに触れた直後の対応は全く違うものであった。ホワイトハウスの前には、近くにあるジョージタウン大学やジョージ・ワシントン大学などの学生が大挙して集まり、お祭り騒ぎを繰り広げた。しかし、一夜明けると、テレビのコメンテーターは口々に報復について触れ、アメリカ国務省から在外アメリカ人に対して報復への注意喚起がなされるなど、多くのアメリカ市民は現実に引き戻された。そして、一層危険な状態に自らが置かれたことに気付いたのである。

 この事件におけるアメリカ市民の態度は、9・11同時多発テロがもたらした影響の二面性を顕著に表している。それは、熱烈な愛国心と恒常的な恐怖である。

 まず、熱烈な愛国心について、どのような点で見てとれるかを考えてみると、第一に挙げられるのが、祭日だけでなく、平日でも星条旗を玄関先などに飾る家が格段に増えたことである。もちろん、これには政府への支持やテロに対抗しなければならない意志の表明といった点もあるが、テロリストの疑いをかけられやすい地域に人種的背景をもつ人もそれを積極的に行っている。つまり、愛国的な姿勢を示すことへの社会からの圧力が発生するほど、愛国心を表すことは当然視されているといえよう。

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筆者

金恵京

金恵京(きむ・へぎょん) 日本大学危機管理学部准教授(国際法)

国際法学者。日本大学危機管理学部准教授、早稲田大学博士(国際関係学専攻)。1975年ソウル生まれ。幼い頃より日本への関心が強く、1996年に明治大学法学部入学。2000年に卒業後、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修士課程に入学、博士後期課程で国際法によるテロリズム規制を研究。2005年、アメリカに渡り、ローファームMorrison & Foester勤務を経て、ジョージ・ワシントン大学総合科学部専任講師、ハワイ大学東アジア学部客員教授を歴任。2012年より日本に戻り、明治大学法学部助教、日本大学総合科学研究所准教授を経て現在に至る。著書に、『テロ防止策の研究――国際法の現状及び将来への提言』(早稲田大学出版部、2011)、『涙と花札――韓流と日流のあいだで』(新潮社、2012)、『風に舞う一葉――身近な日韓友好のすすめ』(第三文明社、2015)、『柔らかな海峡――日本・韓国 和解への道』(集英社インターナショナル、2015)、最新刊に『無差別テロ――国際社会はどう対処すればよいか』(岩波書店、2016)。

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