石丸次郎(いしまる・じろう) 石丸次郎(ジャーナリスト/アジアプレス)
1962年、大阪出身。1993年に朝中国境1400キロを踏破。北朝鮮取材は国内に3回、朝中国境地帯にはおよそ75回。これまで750人を超える北朝鮮の人々を取材。2002年より北朝鮮内部にジャーナリストを育成する活動を開始し、北朝鮮内部の情報誌「リムジンガン」を創刊、現在5号を発行。主著に『北朝鮮難民』(講談社現代新書)など。TV報告に『北朝鮮に帰ったジュナ』(2010、NHKハイビジョン特集)など。
北朝鮮から、韓国や日本に来る脱北者は増加の一途をたどってきた。韓国入りした脱北者は昨年累計2万人を超え、今年も年末までに3000人ほどに達するペースで韓国入りしている(韓国統一部)。日本にもこれまで200人の脱北者が入国している。
北朝鮮が国際社会に食糧援助を求めていることや、梅雨時の水害被害が小さくなかったことから、食糧難によって脱北難民が増えているような印象があるが、実態はその逆、北朝鮮を脱出する人はこの10年で激減している。
脱北難民問題が国際的イシューとなったのは90年代後半から2002年頃だ。当時と比べると、筆者の感覚では、1000分の1に減っている。かつては、中国の国境地帯に行けばいくらでも会うことができた脱北難民は、今や探し当てるのに難儀するほどだ。
それでは、北朝鮮の経済状況が良くなったのかというとそうではない。2009年末のデノミ措置(通貨ウォンを100分の1に切り下げ)によってお金とモノの流通が麻痺、昨年金正恩氏が後継者候補として登場してからの国内統制の強化もあって、一部地域で餓死者が発生するなど、現在の庶民の生活は、この10年で最悪だといってもいい。
つまり、脱北難民を押し出す、北朝鮮内部の「プッシュ要因」は大きくなったことは間違いないと思われる。にもかかわらず、なぜ脱北者は激減してしまったのだろうか?
論座ではこんな記事も人気です。もう読みましたか?