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[7]震災後のリニア建設を考える(その4)――リニアは、東京への一極集中を加速させる

聞き手=WEBRONZA編集部

原武史

●景色を楽しみたい人には特急、という選択肢を

――中国では短区間ですがリニアの営業路線がある。ところが日本にはありません。日本の技術者の一部の人たちは、「上海のリニアは日本と技術レベルが違う」と批判するそうです。これを悔し紛れと見るか、現実にそうなのか。どちらにせよ複雑な感情が生じているのでしょうね。

 戦前の「あじあ」号は確かにすごい。電気ではなく蒸気を動力源としてあのスピードを出していたわけですから驚異的です。実際に超高速の営業速度を実現するには、まっすぐな線路とその管理が必要ですし、当時なら動力源となる高性能の蒸気機関車も重要です。満洲は基本的に見渡す限りの大平原ですからアップダウンはないし、カーブも少ない。しかも標準軌。好条件が重なっているうえに客車は冷暖房完備で、絨毯を敷き詰めた食堂車ではロシア料理が出てくる。ウエイトレスには白系ロシア人もいる。

 このあたりの話になると、幼少期にしばしば夏休みを満洲で過ごし、「あじあ」にも何度か乗ったという阿川弘之さん(作家)が非常に詳しい。1979年に中国を訪れ、大連からかつての満鉄に乗った阿川さんは、瀋陽(奉天)まで6時間10分を要するとわかり、「列車のスピードに関するかぎり、『あじあ』時代に較べて大幅な非近代化現象ということになりそうであった。往時、『あじあ』号の大連奉天間所要時間は4時間47分である」(『自選南蛮阿房列車』、徳間文庫、1999年)と述べています。

――青函トンネルを掘っていた当時は日本の技術レベルは高かった。しかし、それから何十年もたっているので最新のトンネル掘削技術を維持するのは難しいといいます。もちろん英仏海峡のユーロトンネル建設に川崎重工が参加したり、2012年開通予定のボスポラス海峡の海底トンネルを大成建設が掘り進めたりしているという話もあります。軟弱な首都圏の地盤を縦横に掘り進めた地下鉄工事もレベルが高い。しかし、次はリニアに挑戦しなければ世界水準を維持できない、ということでしょう。

 前回ちらっと触れた戦時中の弾丸列車構想は、対馬海峡の下にトンネルを掘って九州と朝鮮半島を鉄路でつなげるという計画でした。実現はしませんでしたが一部のトンネルなどの設計図も残っていて、南アルプスにトンネルを掘るくらいなら、まだ「弾丸列車」の方に夢があると思います。人口が減り、高齢化が進む日本国内で無理をして東京と名古屋・大阪を非効率なバイパスで結ぶよりも、経済成長やダイナミックな人の流れが新たに見込める博多・対馬と釜山をつなげる方が未来はあるんじゃないか。仮に将来、朝鮮半島が統一されれば、日本と朝鮮半島、そして中国が一つに結ばれる可能性もあります。

――東京~名古屋間が286キロ、東京~大阪間が438キロ。これに対して博多~釜山間は約200キロ。九州本土から壱岐は約30キロ。壱岐と対馬は約50キロしか離れていないし、対馬から釜山も70~80キロでしょう。釜山からソウルまでは韓国の新幹線、KTXが既に営業していて、最高時速300キロで約400キロを最短2時間8分で結んでいます。

 経済効果や国際関係の強化のためには、リニアよりも対馬海峡トンネルの方に未来があると思います。トンネルができて九州から韓国まで鉄道で行けるようになれば、九州と韓国の物理的距離以上に精神的距離が縮まる。この点は、熊本出身の政治学者、姜尚中さんも力説されています(原武史編『「知」の現場から――明治学院大学国際学部付属研究所公開セミナー2』<河出書房新社、2010年>を参照)。

 しかし、国鉄が分割民営化されて各地域会社ができたことで、各社とも自分の営業している地域のことにしか関心を持てなくなりました。JR東海も東京と大阪を結ぶ東海道新幹線という大動脈を今後どうするか、どうやって自社の成長戦略を描くかという発想しかない。九州や日本全体のことなんて考えもしないわけです。

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筆者

原武史

原武史(はら・たけし) 

1962年、東京都生まれ。明治学院大学教授。専攻は日本政治思想史。著書に『大正天皇』(朝日選書、毎日出版文化賞)、『「民都」大阪対「帝都」東京――思想としての関西私鉄』(講談社選書メチエ、サントリー学芸賞)、『滝山コミューン 一九七四』(講談社文庫、講談社ノンフィクション賞)、『昭和天皇』(岩波新書、司馬遼太郎賞)、『鉄道ひとつばなし』『同2』(講談社現代新書)、『「鉄学」概論――車窓から眺める日本近現代史』(新潮文庫)など。最新刊に『鉄道ひとつばなし3』(講談社現代新書)がある。