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野田政権が「党高政低」に転じたわけ

松下秀雄

 民主党政権の政策決定の過程が、がらりと変わった。

 民主党はこれまで、政策は政府が一手に決めるという方針を掲げ、鳩山、菅両政権はこれを実践しようとしてきた。鳩山政権は党の政策調査会を廃止。菅政権は復活させたが、党の意見は政府への提言と位置づけた。

 野田政権では、予算案や法案を国会に提出する前に党の了承を得る。事前に根回しし、党側の意見を反映させる「事前審査制」を採るのである。

 事前審査制。

 自民党政権のころ、よく聞いた言葉だ

 民主党は、これを強く批判していた。

 いわく、党側が実権を握り、首相主導がかなわない。「族議員」がはびこり、政官業の癒着を招く。国会は、事前に決めたことを押し通す場に堕し、審議が形骸化する――。

 なんとも格好の悪い逆戻りである。

  <<そうはいっても、なりふり構っている場合ではない。背に腹は代えられない>>

 野田首相の心中を推し量るなら、そんなところだろうか。

 逆戻りといわれてもかじを切らないと、政権が立ちゆかなくなることを、首相は見せつけられていた。菅直人前首相が退陣に至るてん末が、それである。

■「政府内」よりも「党内」調整

 退陣までの過程で、野田佳彦首相はおそらく、ふたつのことを思い知らされた。

政府・民主党首脳会議を終え、官邸を出る前原誠司・政調会長=9月6日、首相官邸

 教訓その1=党の足並みが乱れれば、首相のクビが飛ぶ。

 菅首相時代、足並みはあちこちで乱れていた。原発の再稼働を巡って海江田万里経済産業相が首相にかみついた一幕は、内閣の「学級崩壊」を思わせた。

 だが、政権の命脈を断ったのは、閣内ではなく党内の足並みの乱れだ。野党が提出した内閣不信任決議案に、小沢一郎元代表のグループが賛成する構えをみせ、可決されるおそれが出てきたため、若い世代に引き継ぐと約束した。

 内閣の足並みが乱れたら、最後は閣僚のクビを切ればいい。権限は首相が握っている。首相は腹さえくくれば、閣内では意見を押し通すことができる。

 国会はそうはいかない。内閣総辞職か衆院解散か。二者択一を迫る権限は衆院が持つ。そして実際にその力があるのは、与党議員である。衆院で与野党の議席差が小さい場合、野党に加えて数人の与党議員が不信任案に賛成するだけで、政権の存立は揺らぐ。

 党内の多数が選んだ代表を、少数の議員が引きずり降ろすのは多数決原理を壊す。造反するなら、離党しないと筋が通らない。だが現に「禁じ手」が行使されそうになった。野田氏を含む菅政権の面々は、肝を冷やしたに違いない。

 野党暮らしのせいだろう。民主党はこれまで、党内の合意形成の大切さが身に染みていなかった。首相や閣僚が口にすれば実現するかのような思いこみが、どこかにあった。菅政権での経験は、そんな「野党ボケ」を吹き飛ばした。

■「まず党内合意」求める野党

 教訓その2=

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