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【野田流統治システムへの疑問(2)】 「政調復活」――「負担」を求める時代に対応できるのか

薬師寺克行

薬師寺克行 薬師寺克行(東洋大学社会学部教授)

 前原誠司代議士を政調会長に起用するにあたって野田佳彦首相が前原氏に「法案、予算、条約は原則、政調会長の了解なしで閣議決定はしない」と約束したことには驚かされた。これこそ民主党が2009年の総選挙に掲げたマニフェストの看板のひとつである「政策決定の一元化」の完全な修正だ。にもかかわらず党内から全く異論が出ない。

 そればかりか首相の「約束」を受けて民主党役員会は政策調査会長が政策決定について絶対的な権力を持ってしまう「政策決定の仕組み」をすんなりと決めてしまった。民主党政権の統治のルールの根本的な見直しを何の議論もなくあっさりと決めてしまうところに民主党の底の浅さが表れている。

●前原政調会長が最高権力者なのか

 前原氏は代表選挙の公約に「政策決定プロセスの改善」を掲げ、具体的には「党の政策調査会の役割を見直す。政策調査会長が与野党協議の中心的役割を果たすとともに、政策調査会での議論を活性化し、議員一人ひとりが政策立案にかかわれる体制を作る」と、政調復活と政策調査会長の権限強化を主張していた。従って、野田首相の約束は首相からの提案というよりは前原氏の要求だったのかもしれない。

 民主党が2009年の総選挙で掲げたマニフェストは鳩山由紀夫元代表が表紙を飾り、冒頭に「鳩山政権の政権構想 5原則」が並んでいる。その一つが「政府と与党を使い分ける二元体制から、内閣の下の政策決定に一元化へ」だった。政府と与党の二つのラインで政策を決めてきた「自民党方式」を改め、政策決定は政府に一元化するという画期的な方針だった。

 子供手当や高速道路の無料化などの見直しでは党内が紛糾したが、抽象度が高いとはいえ重要な原則の放棄には何の批判も不満も出ない。まことに奇妙な政党である。

 野田氏の「約束」は次のような意味を持っている。まず、文字通り政調会長の前原氏が了解しなければ法案、予算、条約は閣議決定も国会提出もできない。従って政調会長の前原氏が全面的な拒否権を有することになり、場合によって前原氏は野田首相以上の権限を持つことになってしまう。

 さらに注目すべき点は、了解事項の中に「条約」が含まれていることだ。憲法73条には内閣の役割として「外交関係を処理すること」「条約を締結すること」が定められており、外交は内閣の事務とされている。あり得ないことと思うが、もしも政府がどこかの国と、あるいは多国間の外交交渉で合意した内容を前原氏が了解しない場合、政府に対して交渉をやり直せと言うのだろうか。むろん外交的にはそんなことは不可能だ。

 つまり、この「約束」をそのまま文字通り読めば、少なくとも政策決定過程においては最高権力者が野田氏なのか前原氏なのか、わからなくなってしまう。

 では、政調会長の了解を得るための民主党内の手続きはどうなるのだろうか。 ・・・ログインして読む
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筆者

薬師寺克行

薬師寺克行(やくしじ・かつゆき) 薬師寺克行(東洋大学社会学部教授)

東洋大学社会学部教授。1955年生まれ。朝日新聞論説委員、月刊誌『論座』編集長、政治エディターなどを務め、現職。著書に『証言 民主党政権』(講談社)、『外務省』(岩波新書)。編著に、『村山富市回顧録』(岩波書店)、「90年代の証言」シリーズの『岡本行夫』『菅直人』『宮沢喜一』『小沢一郎』(以上、朝日新聞出版)など。

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