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[9]再び、震災と鉄道を考える(上)――「安全」という尺度だけでいいのだろうか?

聞き手=WEBRONZA編集部

原武史

◆JR東日本への疑問とJR貨物の奮闘◆

――JR東日本が管轄しているエリア自体がものすごく広いから、東京の本社の意識と地元の意識のギャップが大きくなってしまう。更に、沿線住民や自治体の意識にも差があるということですね。

 何度も触れてきましたが、JR東日本は新幹線中心で経営を考えている。これは復旧の仕方を見ても明らかです。「つなげよう、日本」というスローガンを掲げつつ、不通になった多くの在来線よりも、新幹線の復旧を優先させましたからね。そもそもJR東日本は、八戸線以外の線を本気で復旧させるつもりがあるのか。「復旧させる」と口では言っていても、行動が伴っていないように見えます。

 「元の路線を早く復旧して欲しい」。「高台に町を移転させるなら線路もそちらへ移してほしい」。沿線住民の意見は様々でしょう。だから簡単に復旧できない、というのがJRの説明ですが、地区ごとにバラバラな住民の意思統一を待っていたら、いつまでたっても復旧なんてできない。まるでファカルティ(大学の教員組織)メンバー全員の意見を尊重するという建前を大事にする余り、長大な時間がかかるわりには議論が一向に先に進まない大学の教授会のようです。鉄道という公共インフラの事業主体としては、余りにも無責任ではないでしょうか。

――八戸線を除く線は、JR東日本が何もしなければ、このままずっと復旧しないかもしれない。特に採算性の低い区間は、JRの「不作為」によって結果的に廃線に追い込まれる可能性が出てきますね。同じJRグループ各社の中では、JR貨物の震災対応への評価が高かったと思います。東日本とは好対照ですが、何が功を奏したのでしょうか。

 もともとJR貨物は、複数のJR各社の路線に乗り入れる形で貨物のネットワークを構築していました。つまり、貨物は他社と違って全国規模の路線を扱っていたので、被災した路線を迂回して通れる路線を使おうという発想自体がごく自然に生まれました。問題は、福島県の郡山と新潟県の新津を結ぶ磐越西線のように、貨物列車が恒常的に走らない路線を通そうとしたことです。DD51の重連だったと思いますが、磐越西線の車両が所属する新津運輸区にもないような、普段は全く走らないディーゼル機関車を西日本から調達してきて、貨物列車を牽引させました。

拡大無事に石油を送り届け、空のタンク車を引いて夕暮れの中山峠を登る臨時石油列車のDD51=2011年4月16日、福島県郡山市熱海町の磐越西線中山宿―磐梯熱海駅間

――車両の手配も大変だったし、実際に運行する際の準備も大変だった。

 急勾配をどうやって牽引すれば乗りきれるかのシミュレーション。路線の設備や車両の能力が運行可能かどうかの最終チェック。例えば、磐梯山の南麓に当たる広田~翁島間などは峠越えで、なかなかの難所です。今回の被災地への貨物輸送では、電化されている会津若松~郡山間も電気機関車ではなくDD51で運んだようです。ちなみに、会津若松から西に向かう阿賀野川沿いの区間には、「ばんえつ物語」というSLが時々走っていますね。

――日本海側でも、被災して使えない東北本線を大きく迂回する形で貨物列車が走りました。

 一つには、ミニ新幹線の影響があります。つまり、東京から在来線で東北本線や常磐線を使わずに盛岡に行こうとすると、まず高崎、上越、信越、羽越各線を経由して秋田まで行くわけですが、秋田新幹線が在来線の狭軌(1067ミリ)を改めて国際標準軌(1435ミリ)にしたミニ新幹線なので、秋田から青森を経由するしかない。大曲経由で田沢湖線を使えばもっと近いのですが、それができなかったわけです。東北は山形と秋田という二つのミニ新幹線のおかげで、在来線の線路が何カ所も分断されています。前にも触れましたが、奥羽本線は福島~新庄間が標準軌で、新庄~大曲間が狭軌、大曲~秋田間が標準軌で、秋田~青森間が狭軌という細切れ状態です。もちろん貨物列車は狭軌しか走れないので、山形や秋田に貨物列車を走らせるには、日本海側を回るしかない。日本海を震源とする大きな地震があったら、貨物輸送に頼る形での支援は難しいかもしれません。

――これは今後、危機管理上の問題になるかもしれないですね。ただ、これからミニ新幹線を新たに採用するような動きはないようですね。

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筆者

原武史

原武史(はら・たけし) 

1962年、東京都生まれ。明治学院大学教授。専攻は日本政治思想史。著書に『大正天皇』(朝日選書、毎日出版文化賞)、『「民都」大阪対「帝都」東京――思想としての関西私鉄』(講談社選書メチエ、サントリー学芸賞)、『滝山コミューン 一九七四』(講談社文庫、講談社ノンフィクション賞)、『昭和天皇』(岩波新書、司馬遼太郎賞)、『鉄道ひとつばなし』『同2』(講談社現代新書)、『「鉄学」概論――車窓から眺める日本近現代史』(新潮文庫)など。最新刊に『鉄道ひとつばなし3』(講談社現代新書)がある。