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【欧州エネルギー事情】 ドイツ編(5)――自然エネルギーだけに頼らない脱原発

脇阪紀行 大阪大学未来共生プログラム特任教授(メディア論、EU、未来共生学)

●「一本足打法」にあらず

 日本人の多くは、ドイツが再生可能な自然エネルギーへの移行によって脱原発を実現するというイメージを持っているようだ。しかし、その理解は正確ではない。

 風力やバイオマス、太陽光といった自然エネルギーの拡充は、エネルギーシフトを進めるための柱の一つではある。風力発電の実績は世界トップにあり、バイオマスや太陽光も着実に増え続けている。しかし倫理委員会の報告書は、風力や太陽光などの拡充だけに頼って脱原発が実現するとは考えていない。いわば、自然エネルギーだけの「一本足打法」はとらない。

 ただ単に原発を次々閉鎖しただけでは、電力不足による停電が起き、社会に混乱を招いてしまう。そこで報告書は、原発の閉鎖による需給ギャップを埋めるために、自然エネルギーのほかに大きく2つの方策を挙げている。

 第一は、家庭やオフィスのエネルギー効率の向上、すなわち省エネだ。うまくいけば、これによって原発何基分かの電力が節約でき、エネルギー需要そのものを減らしていける。第二は、化石燃料、とくに天然ガスによる火力発電の増設だ。最新技術を使えば、発電効率を上げられるほか、二酸化炭素の排出量も大きく増やさなくてすむ。

 報告書は第7章で20ページを費やして、これらの方策の中身を詳述している。倫理委が、エネルギーシフトを進めるために具体的に何が必要か、という現実的な関心を持っていたことを示すものだ。

●省エネと節電

 提言のトップに挙げられているのが、エネルギー効率の向上、つまり省エネ政策である。その説明には、再生可能エネルギー政策の記述の約2倍の4ページを費やしており、省エネへの関心の強さがわかる。

 章の冒頭はこんなメッセージで始まる。

 「これまではエネルギー供給に重点が置かれた。これからは需要サイドにも優先度を置くべきだ。原発の段階的停止は電力の生産、消費に影響するが……エネルギー消費を減らすべきだ。二酸化炭素の排出はエネルギー供給と結びついているからこそ、この問題にシステムとして取り組まれなければならない」

 原発であれ、火力であれ、自然エネルギーであれ、新たな発電所の新増設は電力の供給能力を増やす政策である。そうではなく、同じ効果を得るにしてもエネルギーの使用量を減らす政策を優先課題とすべきだというのだ。

 スウェーデンやデンマークは、経済成長とエネルギー消費とを切り離すデカップリング政策を掲げている。同じ経済成長をより少ないエネルギーで実現する。生活水準を無理に下げなくても、少しライフスタイルを変えるだけで、エネルギーの消費は減らせる。報告書が強調する「エネルギー効率の向上」は、このデカップリング政策と共通した考え方が背景にある。

 省エネという「エネルギー源」の潜在力は大きい。家庭、企業、政府などでの省エネ・節電の取り組みは、まだ「初期段階」であり、改善の余地は大きい。「家庭の場合、エネルギー効率の改善はさらに最大60%まで可能だ」との見解を倫理委は示している。

●電力使用を「見える化」

 日本では「3・11」後、電力不足に備えて2011年春以降、全国的に節電のキャンペーンが行われた。自動車工場の操業日の土日への変更や、オフィス勤務時間の早朝へのシフトといった企業の対応から、家庭での冷蔵庫やエアコンの節電まで、さまざまな取り組みが行われ、電力消費は大きく抑えられた。

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筆者

脇阪紀行

脇阪紀行(わきさか・のりゆき) 大阪大学未来共生プログラム特任教授(メディア論、EU、未来共生学)

1954年生まれ。79年に朝日新聞社に入社、松山支局などを経て大阪本社経済部に。90年からバンコクのアジア総局に駐在。米国ワシントンでの研修を経て97年からアジア担当論説委員。2001年からブリュッセル支局長。06年から論説委員(東南アジア、欧州など担当)。2013年8月末に退社、9月から、大阪大学未来共生イノベーター博士課程プログラム特任教授。著書に『大欧州の時代――ブリュッセルからの報告」(岩波新書)、『欧州のエネルギーシフト』(岩波新書)。

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