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ウダイ・フセインの影武者

高橋和夫 放送大学教養学部教授(国際政治)

 アメリカ同時多発テロの10周年の追悼式典にブッシュ前大統領とオバマ現大統領がそろって参列した。イラク戦争を始めた男と、それを愚かな戦争と批判してホワイト・ハウスの主となった男が式場に並んだ。大量破壊兵器をフセイン大統領が隠しているとしてアメリカは戦争を始めた。

 しかし大量破壊兵器は見つからなかった。しかもイラクでは10万以上の人命が失われた。またアメリカも途方もない戦費を注ぎ込み、多数の若者を失った。同国は、財政赤字に苦しみ、威信を傷つけられた。どこから見てもイラク戦争は愚かな戦争であった。アメリカの有権者の多くは、この解釈を支持してオバマに投票した。オバマの当選によって、アメリカ国民によるイラク戦争に関する評価は既に定まった。そして歴史的な評価さえも既に決したかの観がある。戦争は失敗であった。

2003年4月、イラク戦争が始まって、暴徒らに破壊されて家財道具などが持ち出されたウダイ邸に、少年たちがまだ使えそうなものを求めてやってきた=バグダッドで

 だが、そう簡単に割り切ってもよいのだろうか。フセイン大統領の長男ウダイの影武者であったラティーフ・ヤヒアの回顧録『悪魔の影武者(Devil's Double)』の投げかける疑問である。この本は、1990年代にドイツで出版された。そしてイラク戦争開戦の年の2003年に英語圏でも出版された。ちなみに邦訳は、まだのようである。

 この本に基づいた映画が、この夏からアメリカで公開され再び話題を集めている。この映画の予告編をインターネット上で見ることができる。なお日本では未公開である。主演はドミニク・クーパーで、ウダイと影武者のヤヒアの二役を演じている。監督は2002年のボンド映画『007/ダイ・アナザー・デイ』でメガホンを取ったリー・タマホリである。

 ウダイの高校の同級生だったヤヒアは容貌が似ていることから、拷問を受け、無理やりに影武者にさせられてしまう。

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