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最終局面のFX選定――透明性の確保は?

谷田邦一 朝日新聞専門記者(防衛問題担当)

 「いやあ、参った。先輩の元大使から『よろしく』と頼まれてしまった」

 「米国の有力議員の紹介状をもってこられちゃ、簡単に面会を断れない」

 航空自衛隊の次期戦闘機(FX)選定に関与する防衛省幹部の間では、少し前まで、こんな会話が交わされていた。名乗りをあげた米欧3社からの働きかけは、官僚や自衛官に限らない。まだ詳しくはご紹介できないが、民主党の国会議員へのアプローチはもっとすさまじかったようだ。

 足かけ6年に及んだ長く熾烈な競争が、いよいよ大詰めを迎えている。年内のゴールを目前に、各社とも担当重役を日本に張り付け、あらゆるつながりを駆使して最後の売り込みを展開中だ。その後ろ盾となる米英両政府も、キャメロン英首相やパネッタ米国防長官ら政府要人が「セールス外交」に乗り出すなど、国をあげての売り込み合戦の様相を呈している。

 英首相は9月に国連総会に出た野田首相に直談判し、10月に来日した米長官も普天間移設問題の前進だけでなく、米国機の採用を促すことを忘れなかった。 

 およそ40年前から使うF4戦闘機の後継は、本来なら2008年夏までに決まっていたはずだ。ところが、防衛省が世界最強のステルス戦闘機F22にこだわったことで、予想外に長引いた。結局、米議会が同機を禁輸にしてしまったため、競争は、まだ開発途中だった米ロッキード・マーチン社のF35、米ボーイング社のFA18、欧州のBAEシステムズが窓口のユーロタイフーンの3機種の間で延々と繰り広げられた。

拡大FX候補3機種の比較

 この6年間に、各社の売り込み条件は次々と様変わりした。

 ステルス性能や高い運動性など大きな進化を遂げた第5世代機の最新技術は、ほとんどがブラックボックス化されるだろうと多くの関係者は見ていた。戦後一貫して続いてきた日本国内でのライセンス生産は「もはや不可能ではないか」とまで心配された。ただ日本の技術レベルを高めるためには、「一定の技術開示があることが必須」という点で日本側は官民とも一致している。

 そこに目を付けたのが英国のBAEシステムズだ。同社はユーロファイターの「100%の技術開示・技術提供」を提案。新技術の海外移転に消極的だった米国勢に、当初は大きく水をあけた。ところが、レース終盤になると、米国の2社はともに国内でのライセンス生産や技術開示に前向き姿勢を示し、日本のメーカーと共同で製造ラインを設ける方針を明言するようになった。

 機体の仕様も随分と変わった。第5世代機の大きな特徴は、レーダーに探知されにくいステルス技術の導入にある。F35はもともとステルス機として設計され、開発が進んできた。しかし他の2機種は、限定的なステルス性能にとどまる「4・5世代機」。そのハンディを克服するため、FA18は、航空戦で優位になるよう、最新式レーダー(AESAレーダー)やレーダー波以外で敵機をとらえる赤外線探知センサーを搭載し、他との違いを際だたせた。ところが、ユーロタイフーンも、さっそく同じAESAレーダーを搭載した機種の開発に取りかかり、ギャップを埋めてしまった。

 性能では抜群だったF35だが、日本側が求める2016年の納入期限に間に合うのかどうかが不安視されていた。これも、米政府自身が「間に合わせる」とお墨付きを与えるところまでこぎ着けた。同機は予想以上に開発が長引き、今も開発費の増大で単価が膨らむのでないかとの心配が残る。かつては1機200億円超とささやかれたことさえあった。この点についてもロッキード・マーチン社は、量産効果によって、米空軍向けとほぼ同水準の6500万ドル(約50億円)が目安と日本のメディアには説明している。

 実戦経験の有無も評価の分かれるところだ。ユーロファイターは英空軍機としてリビア空爆の実戦成果をもとに、またFA18は米海軍の艦載機としてイラク戦争やアフガン作戦の実績を引き合いに、「実戦経験のないF35の能力は未知数」とネガティブキャンペーンをかけている。

 勝負は最後までわからない。しかし、

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筆者

谷田邦一

谷田邦一(たにだ・くにいち) 朝日新聞専門記者(防衛問題担当)

1959年生まれ。1990年、朝日新聞社入社。社会部、那覇支局、論説委員、編集委員、長崎総局長などを経て2013年4月から社会部専門記者(防衛問題担当)。主要国の防衛政策から最新兵器、軍用技術まで軍事全般に関心がある。防衛大学校と防衛研究所で習得した専門知識が、現実の紛争地でどのくらい役立つのか検証取材するのが夢。

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