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【野田流統治システムへの疑問(3)】「国家戦略会議」――これでお茶を濁しているときではない

薬師寺克行

薬師寺克行 薬師寺克行(東洋大学社会学部教授)

 野田政権が発足して約2カ月、徐々にその姿や手法が見えてきた。

 どんな政権でも何か「改革」を掲げて成果を上げたがるが、この政権はやらなければならない課題がはっきりしすぎるくらいはっきりしており、何を改革するかを考える必要がない。震災復興や原発事故への対応はもちろんだが、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加問題、消費税率の引き上げを含む税と社会保障制度の一体改革、沖縄・普天間飛行場の移設問題と、どれもこれも大きな課題ばかりだ。

 震災対応以外はどうするかの選択肢はほとんどなく、答えがはっきりしている。にもかかわらず自民党政権時代を含め歴代政権が党内調整を避けてずるずると結論を先送りしてきた、そんな問題ばかりだ。

 つまり、いずれの課題もすでに政府内での「政策調整」の段階を終え、与野党あるいは国会が法律や予算としていかに実現するかという「政治調整」の段階に入っているのだ。野田佳彦首相は最も早く結論を出す必要に迫られているTPPの対応を、閣僚ではなく主に民主党の政策調査会に任せている。前原誠司政調会長を中心にして民主党内の合意形成を図るとともに、野党の自民党や公明党の理解も得ようとしている。税と社会保障制度の一体改革もいずれ党を中心に展開していくことになるだろう。

 そんな中で10月28日、国家戦略会議がスタートした。中長期的な課題に重点を置いて議論し、年内に「日本再生の基本戦略」をまとめる予定だという。野田首相は政権発足時にはこの会議を重要政策の「司令塔」と位置付けていたが、かなり姿が変わったようだ。

●拒まれたままの経済財政諮問会議

 少しさかのぼって考えてみたい。国家戦略会議は自民党政権時代に誕生した「経済財政諮問会議」を否定するために打ち出された組織だが、民主党が政権獲得してからの2年余りの間に何度も姿を変えている。

 2009年総選挙での民主党マニフェストには「官邸機能を強化し、総理直属の『国家戦略局』を設置し、官民の優秀な人材を結集して、新時代の国家ビジョンを創り、政治主導で予算の骨格を策定する」と書かれており、政治主導を実現するための象徴的な存在となっていた。

 鳩山内閣では国家戦略室としてスタート、鳩山由紀夫首相はその役割について「税財政のあり方、経済運営の在り方、予算の骨格を作る」「将来的には国家ビジョンを作らなければならないので、内政だけでなく外交の基本的考え方、東アジア共同体のようなことも将来的には練ってもらいたい」と大きな絵柄を描いていた。鳩山内閣で国家戦略担当相となった菅直人氏は、「従来の単年度の予算から複数年度の予算を見通す」など予算編成のあり方の改革に踏み込む積極的な姿勢を見せた。しかし、閣内の主導権争いもあって菅氏の出番はほとんどなく、二人が語ったことは実現しないままに終わった。

 続く菅内閣で国家戦略室の位置付けは大きく変わった。まず、国家戦略室を国家戦略局に格上げする内閣法改正案の成立が見通せないことから、菅首相は国家戦略室を「首相直属機関として首相に対するシンクタンク機能を果たして頂きたい」と逆に格下げしてしまった。そのうえで「首相にはいろいろな役所から説明に来るが、多くの場合、その役所が思うことに沿った説明であり、それと矛盾する説明はあまりない。最終的判断をする首相としては役所以外の立場からの知見もしっかり得ることが重要だ」と、官僚機構への対抗機関としての位置付けをしていた。官僚組織に批判的な菅氏らしい発言だが、これもほとんど機能しないままに終わった。

 そして野田首相は、「産官学合同の会議体」と述べ、官僚への対抗意識が強かった菅氏とは正反対の考えを示しているあたりが「おやっ」と思わせた。 ・・・ログインして読む
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筆者

薬師寺克行

薬師寺克行(やくしじ・かつゆき) 薬師寺克行(東洋大学社会学部教授)

東洋大学社会学部教授。1955年生まれ。朝日新聞論説委員、月刊誌『論座』編集長、政治エディターなどを務め、現職。著書に『証言 民主党政権』(講談社)、『外務省』(岩波新書)。編著に、『村山富市回顧録』(岩波書店)、「90年代の証言」シリーズの『岡本行夫』『菅直人』『宮沢喜一』『小沢一郎』(以上、朝日新聞出版)など。

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