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悪い冗談はやめよう――原発撤退のジーメンス社に学ぶ

三島憲一

三島憲一 大阪大学名誉教授(ドイツ哲学、現代ドイツ政治)

 野田首相は、ベトナムやトルコへの原発輸出ができるようにしたようだ。悪い冗談か、と思った人は多いだろう。脱原発から減原発にトーンを落としたとはいえ、これだけの大事故の後でまだ輸出しようというのは、なんとなく粗悪品の押し売りの印象は拭い得ない。万一の事故を考えたら、その影響から見て、中国が新幹線輸出をあきらめていないより、たちが悪い。

 売る方も売る方だが、買う方も買う方だ。日本の原子力技術を不信の目で見るはずの買う側も、なにがしかの思惑があるに違いない。アメリカやフランスのものより安いとか、あるいは原子力に関して欧米への依存を減らしたいとか。

 いずれにしても、原子力ロビーがいかに健在かを示す話だ。事故も、原子力産業にとっては、蚊が止まった程度のことなのかもしれない。いずれほとぼりが冷めるのを待っているというのが本音だろう。

 それでは、10年かけて原発から降りることを決めたドイツではどうなのだろうか。ドイツの原発輸出の総元締めは、ヨーロッパ最大の総合電機メーカーのジーメンス社である。伝統あるこの会社は、日本では海軍中枢を巻き込んだ1914年の一大疑獄事件の「シーメンス事件」で知られている。当時は「ジーメンス」よりも「シーメンス」がなじみだったようだ。あるいは古河電工とジーメンスとの共同設立によって、古川の「ふ」とジーメンスの「じ」をとって富士電機ができたことを知っている人もいるだろう。町の眼鏡屋や薬屋では、シーメンスの補聴器も売られている。

 いずれにせよ、家電、重電、医薬品、金融にまたがる超大企業である。ドイツではもう長く原発の新規建設は事実上不可能だったが、それでも、おそらく東芝や三菱や日立がこれからしたがっているのと同じく、原発を海外で建設し続けていた。

 そのジーメンスは2011年の9月に原子力関係の仕事から撤退することを決定した。

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