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就職活動の通年化は、学生の人格を破壊する

薬師寺克行

薬師寺克行 東洋大学社会学部教授

 今年も間もなく大学生3年生を対象にした新たな就職活動サイクルがはじまる。それを前に都内の大学で驚くようなポスターを見つけた。タイトルは「就職活動用『証明写真』 学内撮影会」となっている。

 問題なのはその下だ。「100枚 8500円 80枚 7500円 60枚 6500円……」と枚数と値段が書かれている。さらに「平均使用枚数は50枚位です」と注意書きがある。この大学はいわゆる有名校に属する大学で、毎年就職率が高いことでも知られている。そんな大学でさえかくありなんかとおもわせるポスターであった。

拡大ある大学での「就職活動用証明写真」の案内

 顔写真が100枚も必要な就職活動というのを私は簡単に想像できない。学生たちは企業から取り寄せたエントリーシートに次々と顔写真を貼り付けて、「今度こそは内定が取れますように」と祈りながら投函を繰り返しているのだろう。 

 景気が低迷し企業の採用数が激減している厳しい環境とはいえ、いくらなんでも1人で100枚は例外と思いたくなる。しかし、今年、私の大学で企業の内定を獲得した4年生を対象にしたアンケートをまとめた冊子をめくると、多くの学生がエントリーシートを30―50社に提出している。この冊子に答えている学生は4―6月に内定を得た比較的恵まれた学生たちである。

 私の大学では4年生で就職を希望している学生のうち、半数余りがいまだに内定を得ていない。昨秋に就職活動を始め、すでに1年がたつが、彼ら、彼女らは今もまだエントリーシートに顔写真を貼り投函する作業を続けているのである。

 だから、その数が何枚になるのか想像もできない。そして、多くの4年生が就職活動を延々と続けている中で、3年生の就職活動が新たに始まるのだ。

 こうした就職活動の「通年化」が、大学教育の場に多くの弊害をもたらしていることは知られているが、問題はそれだけではない。学生にとって人生の夢を獲得するための就活が、逆に彼らの心をボロボロに壊している事を、大学に籍を置いて初めて肌で感じている。

 後期授業が始まってしばらくしてやっと、「内定が取れたので、これからきちんと授業に出ることができます」と言ってくる学生はまだいい。

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筆者

薬師寺克行

薬師寺克行(やくしじ・かつゆき) 東洋大学社会学部教授

東洋大学社会学部教授。1955年生まれ。朝日新聞論説委員、月刊誌『論座』編集長、政治エディターなどを務め、現職。著書に『証言 民主党政権』(講談社)、『外務省』(岩波新書)、『公明党』(中公新書)。編著に、『村山富市回顧録』(岩波書店)、「90年代の証言」シリーズの『岡本行夫』『菅直人』『宮沢喜一』『小沢一郎』(以上、朝日新聞出版)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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