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【欧州エネルギー事情】 ドイツ編(8)――送電線が足りない

脇阪紀行 大阪大学未来共生プログラム特任教授(メディア論、EU、未来共生学)

 前回、脱原発の決定から半年余り過ぎた今、政官財界をはじめとするドイツ全体に脱原発を後戻りさせる動きはないことを報告した。しかし、風力やバイオマスなど再生可能エネルギーを取り込んで電力体系を変革していくために送電線の建設や電力貯蔵の研究開発が不可欠だが、その遅れを危ぶむ声は強い。

 首都ベルリンの連邦経済技術省。10月に訪問した際、ヨヘン・ホマン事務次官は「送電線の問題がネック」として、以下のような問題を指摘した。

(1)風に恵まれたバルト海一帯の北部では陸上部に加えて、洋上のオフショア風力発電が今後増える。しかし、電力の大消費地である南部の工業地帯に持ってくる送電線が今のままでは足りなくなる。

(2)北アフリカの砂漠で太陽光発電を進める「デザテック計画」は話題になったが、欧州が利用するための送電線が不十分だ。北欧の国々と電力をやり取りするためにも送電線の拡充が必要だ。

―――要するに、国内、国外でさまざまな新しい電力が生まれてきたとしても、それを運ぶ送電線が不十分だというわけだ。ちょうど自動車の数がどんどん増えても、アウトバーンのような高速道路の整備が進まなければ、肝心の自動車利用が増えないのと同じことだ。「電力アウトバーン」の建設が、脱原発、そして次の時代へのエネルギーシフトのために欠かせないのだ。

 三菱東京UFJ銀行の調査によると、2020年までの高圧送電線への投資は、20~40億ユーロが見込まれている。必要な高圧送電線は3600~4200Kmとされるが、過去5年間で敷設されたのはわずか90Kmにすぎないという。

 送電線建設には、長期間にわたる準備が必要であり、過去5年間で90Kmという実績の少なさは、メルケル政権による脱原発決定がなされる前からの問題であることがわかる。

 背景にあるのが、送電線建設を歓迎しない住民の存在だ。

 日本に比べて平原が多く、都市や人口が分散しているドイツでは、どこに通そうと、送電線の建設予定地沿いには住宅や街路がある。景観の破壊や低周波被害を心配する声が住民から上がるのは、ある意味で当然のことかもしれない。

 政府が対策を立てていないわけではない。7月に国会で成立したエネルギー送電網拡充法では、送電線の計画段階から市民参画を求めている。「事前に人々に情報を知らせ、建設現場にも招いて、見学してもらい、理解を得ていきたい」と連邦経済省のホマン事務次官は言う。公共施設の建設に対して住民たちが「自分の裏庭に作ってほしくない」と反対する、いわゆるNIMBY(Not In My Back Yard)問題はドイツも無縁ではないのだ。

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筆者

脇阪紀行

脇阪紀行(わきさか・のりゆき) 大阪大学未来共生プログラム特任教授(メディア論、EU、未来共生学)

1954年生まれ。79年に朝日新聞社に入社、松山支局などを経て大阪本社経済部に。90年からバンコクのアジア総局に駐在。米国ワシントンでの研修を経て97年からアジア担当論説委員。2001年からブリュッセル支局長。06年から論説委員(東南アジア、欧州など担当)。2013年8月末に退社、9月から、大阪大学未来共生イノベーター博士課程プログラム特任教授。著書に『大欧州の時代――ブリュッセルからの報告」(岩波新書)、『欧州のエネルギーシフト』(岩波新書)。

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