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 評論家の加藤典洋氏が近著の中で、東日本大震災と福島第一原発の事故の報に接した時感じた「これまでに経験したことのない、未知の、悲哀の感情」について書いている。

 この惨事が「人間を含む自然全般を深く汚染・毀損することを通じ、私を“スルーして、”」自分に続く後の世代をターゲットにしている。そう感じた加藤氏はこう記す。

 「大鎌を肩にかけた死に神がお前は関係ない、退け、とばかりに私を突きのけ、若い人々、生まれたばかりの幼児、これから生れ出る人々を追いかけ、走り去っていく。その姿を、もう先の長くない人間個体として、呆然と見送る思いがあった」(『3.11――死に神に突き飛ばされる』(岩波書店)

 ブータンのワンチュク国王夫妻が来日し、震災に被災した福島県相馬市や京都の金閣寺訪問の際の住民との交流を通じて、多くの国民に感激を残した。国王夫妻の優しい振る舞い、GNH(国民総幸福)指標の提唱に示される独自の幸福哲学。インドと中国にはさまれた人口70万人の小国の国王夫妻の来日がこれほど多くの共感や感謝の思いを生んだのは、「きずな」や「癒し」を求めるいまの日本人の心象風景を見事に表わしたものでもあるだろう。

 ただ加藤典洋氏の思いを冒頭で紹介したのはほかでもない。いかに心優しいブータンの国王夫妻の力をもってしても、

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筆者

脇阪紀行

脇阪紀行(わきさか・のりゆき) 大阪大学未来共生プログラム特任教授(メディア論、EU、未来共生学)

1954年生まれ。79年に朝日新聞社に入社、松山支局などを経て大阪本社経済部に。90年からバンコクのアジア総局に駐在。米国ワシントンでの研修を経て97年からアジア担当論説委員。2001年からブリュッセル支局長。06年から論説委員(東南アジア、欧州など担当)。2013年8月末に退社、9月から、大阪大学未来共生イノベーター博士課程プログラム特任教授。著書に『大欧州の時代――ブリュッセルからの報告」(岩波新書)、『欧州のエネルギーシフト』(岩波新書)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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