2011年12月22日
その所業に比べ、あまりにあっけなかったその「死に様」を目の前にしてだ。
少なくとも、この20年来、北朝鮮をウォッチするというのは、すなわち、金正日という稀代の人物の動静を追いかけるのを意味していた。
いま我々が知る北朝鮮という首領独裁国家のありようは、多くが、この「金王朝2代目」の指示によって作られたものといっていい。
あの、どう見ても奇矯というしかない、三角の形をした平壌の「柳京(リュギョン)ホテル」(建設が中断され、長く吹きさらしにされていたが、数年前にエジプト資本により工事再開)も、世界中にその名を轟かせようとした金正日氏の指示によって着工されたといわれる。
いま、平壌市民が訪れ嘆き悲しむさまを見せている巨大な金日成(キム・イルソン)像の建設も、父親・金日成氏の還暦を機に父の神格化をさらに押し進めた正日氏の命による。筆者も経験があるが、あの像を横から撮影しようとすると、「不敬なことをするな」と案内人にひどく怒られるのである。
父親を絶対君主とし、自分が父親の後継者になるのは「主体革命の歴史的帰結である」と理屈をこねあげ、論文化させ、「大系化」させたのも、やはり彼だった。
北朝鮮の映画水準が西側に比べあまりに低いからという理由で、韓国の著名映画監督とパートナーの有名女優を香港で拉致し、北に連れてきたのも彼。北に連れてこられた有名女優を迎えた場で、「どうですか。私はまるで、(太っていて)太いウンチみたいでしょ」と歓迎の言葉を吐いた男。
在日朝鮮人を使った韓国への浸透工作がうまくいかないとみるや、工作員を日本人に成りすまさせようと、その教官役に使うため日本人を次々と北に拉致させた男。
そして、度重なる核実験、弾道ミサイル発射、強制収容所……。
まるでマンガかピカレスク小説にしか出てこないような稀代の人物、それが金正日氏なのだった。
長年、北朝鮮について研究してきた碩学はこう話す。
「いってみれば、彼は芸術家だ。
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