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[2]不信の存在

朴裕河 世宗大学校日本文学科教授

 この間も韓国では基金反対と国会議決に基づく別の「謝罪と補償」を求める動きが続き、基金と挺身隊問題対策協議会の対立は深まります。韓国政府は日本政府との対立を続けながら「慰安婦」たちに基金の補償金に近い金額を独自に支払ってもいます。

 そして2005年、日韓会談の会議録を公開する中で、個人賠償は政府が代わりに支払うことにして一括して韓国政府が受けとったことが明らかになります。その後会談直後の事業が不十分だったとして、植民地時代の被害者のための法律を作り新たな補償事業が行なわれました。

 今もなお韓国の「慰安婦」たち60人ほどが、日本政府を相手に訴訟中です。その意味では、現在の「慰安婦」問題とは、まずはこの60人に対してどのような対応をすればいいのか、という問題とも言えます。

 ここ数年、韓国政府は日本政府に対して「慰安婦」問題の解決を積極的に働きかけるようなことはしませんでした。そこで「慰安婦」たちと支援団体は、日本国に対して「日本軍『慰安婦』としての賠償請求権」を持っているにもかかわらず韓国政府が日本側に働きかけないのは政府の責任を果たしていないことだとして、2006年に韓国の憲法裁判所に訴訟を起こしていました。

 それは、1965年の「大韓民国と日本国間の財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する協定」で、両国の「解釈上の紛争」がある場合は第三国を交えて協議することにした条項を根拠にしてのことです。

 そして2011年8月、憲法裁判所は韓国政府が日本政府に働きかけないのは憲法違反との判決を下しました(http://www.asahi.com/international/update/0830/TKY201108300493.html)。それを受けて韓国政府が動き出し、まずは両者で協議のテーブルに付くことを日本政府に申し出ているのが、ここ数ヶ月の状況です。

 しかし今のところ日本政府は「1965年で請求権問題は終わった」とする立場のままです。そして先日、韓国政府は、いよいよ「第三国」をまじえての調整に入るための予算を来年度予算に組みました。

 つまり今日本は、このまま無対応で一貫するのか、第三国を交えての協議に入るのか、あるいは韓国政府の最初の要請に応じて二者協議に入るのかを決めるべき時期に来ているのです。

 そこでまず言えるのは、「第三国」を入れての協議は、両国にとってともに望ましい解決策とは言えない、ということです。それは、日韓の関係者たちほど、この問題について精通している人物を第三国から得ることはおそらく難しいからです。

 となれば、結局両方の国家や支援団体はこれまでのようにそれぞれ自国の言い分を主張するほかなく、結局は情報戦(ロビ-戦)になるほかないでしょう。その結果は、2007年に欧米の議会が次々に日本に向けて新たな「公式」謝罪をするよう要求する議決を出したときと同じことになる可能性が大きいのです。

 2007年の「慰安婦」問題をめぐる動きについては後で改めて触れますが、その結果から見えてきたのは(欧米の人に「世界」を代表させておくとして)、現在「世界」は、この問題において日本の味方ではない、という現実です。

 しかし、そのような結果では日本政府としては納得がいかないでしょう。

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筆者

朴裕河

朴裕河(パク・ユハ) 世宗大学校日本文学科教授

1957年、ソウル生まれ。世宗大学校教授。慶應義塾大学文学部卒業後、早稲田大学大学院で日本近代文学を専攻(博士)。著書に『和解のために――教科書・慰安婦・靖国・独島』(佐藤久訳、平凡社ライブラリー、2007年度大佛次郎論壇賞受賞)、『ナショナル・アイデンティティとジェンダー――漱石・文学・近代』(クレイン)、『反日ナショナリズムを超えて――韓国人の反日感情を読み解く』(安宇植訳、河出書房新社)など。編著に『東アジア歴史認識論争のメタヒストリー――「韓日、連帯21」の試み』(青弓社)。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです