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イラン制裁をめぐる玄葉光一郎外相と安住淳財務相の対立は深刻だ

佐藤優 作家、元外務省主任分析官

●英国中心にイランへの合同秘密工作が行われている!? 

 イラン情勢が緊迫している。最終段階に至ったイランの核開発を阻止するために、米国、英国、イスラエルは、文字通り、あらゆる手段を用いることを躊躇しなくなっている。その中には、イラン国内での破壊活動や暗殺も含まれている。1月11日、テヘランで核施設に勤務する専門家が何者かによって暗殺された。この事件は、現下の緊張の深刻さを示すものである。朝日新聞の報道を引用しておく。

<イラン、米国とイスラエルを非難 科学者暗殺めぐり

 イランの首都テヘランで11日に核施設に勤務する科学者が暗殺された事件をめぐり、イランが、米国とイスラエルが関与したとして非難を強めている。核開発への制裁強化をめぐり国際社会と対立する中、イランの核科学者が暗殺される事件が続発。報復を促すメディアもあり、緊張が高まっている。

 出勤中の車内で爆弾テロに遭い、死亡したモスタファ・アフマディロウシャン氏(32)の葬儀が13日、テヘランであった。参列した数千人が、「イスラエルに死を!」「米国に死を!」などと叫びながら、ひつぎを取り囲んだ。

 報道によると、同氏はテヘランの大学で化学を教える傍ら、中部ナタンズのウラン濃縮施設で資材調達を担当していた。 

 最高指導者ハメネイ師は12日、追悼メッセージを発表。「事件はCIA(米中央情報局)とモサド(イスラエル対外情報機関)の計画と支援で実行された」と名指しで非難。さらに「我々は確固たる決意で歩み続ける」とし、核開発を今後も続ける姿勢を強調した。 

 政府系のケイハン紙は社説で「なぜ報復しないのか。イスラエル政府や軍高官の暗殺は簡単だ」と訴えた。 

 ただイランでは国際社会の制裁などが響き、国民は高いインフレ率や失業にあえいでいる。「国民の注意を国内問題からそらすため、当局が暗殺を仕組んだのではないか」(地元記者)との見方もある。 

 イランの核科学者らを狙った暗殺事件は、この2年間で11日の事件も含め4件発生。2010年1月に核物理学者が爆死した事件に関与したとしてイラン人の男に昨年8月、死刑判決が下った。イランのメディアは、男が「モサドから12万ドルで殺害を請け負った」と供述したと伝えた。(テヘラン=北川学)>(1月14日、朝日新聞デジタル)  

 モスタファ・アフマディロウシャン氏の暗殺について、米国政府は関与していないと述べたが、イスラエル政府は沈黙している。筆者は、本件暗殺を含め、英国、イスラエル、米国、フランス、ドイツのインテリジェンス機関によるイランの核開発を阻止するための合同秘密工作が行われていると見ている(各国の関与度は、この順番で強い)。

 イランもこのことをわかっている。1月18日の国営ラジオ「イランの声」は、本件に対するイランの抗議について、以下の通り報じた。

<イランがアフマディ・ロウシャン教授の暗殺に抗議  

 スイス・ジュネーブの国連欧州本部のサッジャーディ・イラン大使が、イラン人核科学者アフマディ・ロウシャン氏の暗殺に対する国際機関、特に人権機関の沈黙を非難しました。サッジャーディ大使は、ピレイ国連人権高等弁務官に公式書簡を送り、「イラン人学者に敵対する国々の組織テロを非難するのは責務であり、国際機関は、イラン人学者に対する最も明らかな形での暗殺を非難すべきだ」と語りました。

 この書簡はまた、国際機関、特に人権機関が、犯罪者のテロを横行させていると強調し、「2年余りのうちに、イランの大学教授や学者が一部の敵国の組織的な暗殺計画の標的になったことは、深く懸念すべき事柄だ」としています。イランの大学教授アフマディ・ロウシャン氏は、今月11日、アメリカとシオニスト政権イスラエルに雇われたテロリストによってテヘランで暗殺されました。イラン国民の敵は、これまでにも、アリーモハンマディ氏、シャフリヤーリー氏、レザーイーネジャード氏の3人のイラン人学者を暗殺しています。>(1月18日、「ラジオ・イラン」日本語版HP) 

 イランは、イスラエルとともに米国が主導的役割を果たしていると報じているが、実際は英国が中心的役割を果たしていると筆者は見ている。いずれにせよ、ソ連崩壊後、初めて「西側諸国」だけが団結した、合同秘密工作が行われている。

 イランは原子力の平和利用と偽って核開発を推進している。それに対して、国際社会、国連、IAEA(国際原子力機関)が警告を加えたがイランは聞く耳を持たない。この状況から2つの危険が生じる。

 第一は、イスラエルが武力行使によってイランの核開発施設を破壊し、本格的な戦争が始まる可能性だ。イスラエル国防軍は、既にイラン攻撃の準備を済ましていると見られている。米国は、現在、水面下でイスラエルに対して、イランに対する軍事行動を阻止するように圧力をかけている。

 第二は、中東諸国への核拡散が起きることだ。インテリジェンス専門家は、パキスタンとサウジアラビアの間に秘密協定があると見ている。この協定では、イランの核保有が確認された場合、パキスタンからサウジに核弾頭を移転することが定められている。そもそもパキスタンの核開発の資金を提供したのはサウジだ。それだから核弾頭のオーナーであるサウジの要請をパキスタンが断ることはできない。

 また、現状で米国がこの核弾頭の移転を実力で阻止することはできない。そうなると複数の湾岸諸国が核弾頭や弾道ミサイルをパキスタンから購入し、核戦争の危機が強まる。 

 インテリジェンスの世界に生きる人々は非情だ。本格的な戦争が起きることや、核拡散が生じるよりは、破壊活動、暗殺を用いてでもイランの核開発を阻止すべきと本気で考えている。


筆者

佐藤優

佐藤優(さとう・まさる) 作家、元外務省主任分析官

1960年生まれ。作家。元外務省主任分析官。同志社大学神学研究科修士課程修了。外務省では対ロシア外交などを担当。著書に『宗教改革の物語――近代、民族、国家の起源』(KADOKAWA)、『創価学会と平和主義』(朝日新書)、『いま生きる「資本論」』(新潮社)、『佐藤優の10分で読む未来』(新帝国主義編、戦争の予兆編、講談社)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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