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イラン制裁をめぐる玄葉光一郎外相と安住淳財務相の対立は深刻だ

佐藤優 作家、元外務省主任分析官

●玄葉外相発言を検証する

 どうも日本政府は、政治家も官僚も事態の深刻さを等身大で認識していないようだ。特に、外交を司る玄葉光一郎外相の現状認識と対応が頓珍漢だ。イラン情勢、大量破壊兵器の不拡散に対する認識が、国際政治を語る政治家としての最低限の水準に達していない。その上、基本的スタンスをめぐる発言が変遷する。具体的かつ実証的に玄葉外相のイラン制裁をめぐる発言を検証してみたい。

 まず、1月4日の記者会見における以下のやりとりを見てみよう。

<【ロイター通信 金子記者】 米国のイラン制裁の措置ですけれども、日本が制裁措置の適用から除外される可能性について、どのようにごらんになっているかという点と、あと、米国が適用除外について決めるのは大体いつぐらいになるのかという目途がもし日本の方でありましたら、お願いいたします。

【玄葉大臣】 米国のイランに対する制裁、特に中央銀行との取引を行っている企業の、いわばドル取引の禁止の問題でありますけれども、この点につきましては、私(大臣)からもクリントン国務長官にこの間、もっと言えば先般の外相会談でも、日本経済、そして世界経済、もっと言えば米国における消費に対してマイナスの影響があり得ると、逆効果もあり得るということを伝えたところであります。それに対してクリトン国務長官からは、運用に関して慎重に行っていきたいという話があったというように記憶をしています。

 したがって、この問題につきましては、引き続き緊密に連携しながら、これからの中東訪問と絡むのですけれども、いわゆる原油の代替の問題も出てまいりますし、あるいは中央銀行以外の決済の仕方というのがないのかどうかなど、いろいろなさまざまな問題がございますので、そういった問題も常に頭に置きながら、米国側としっかりと連携をしていきたいと考えております。

 時期については、我々は大体この辺りだろうという時期は念頭に置いていますけれども、外に向かって申し上げる状況にはないというように思っています。>(1月4日、外務省HP

 玄葉外相の発言については、3点の問題がある。

 第一は、イランの核開発に対する懸念をまったく表明していないことだ。米国、EUとイランの核開発について強い懸念を表明した上で、日本の特殊事情について説明するのが外交の定石だ。

 第二は、米国の国防権限法に対する玄葉外相の認識だ。2011年12月31日に、米国のオバマ大統領は、2012会計年度(11年10月~12年9月)の国防権限法案に署名し、同法が成立した。この法律では、イランの核開発を阻止するための追加的な制裁措置が盛り込まれている。

<核開発問題をめぐるイランへの制裁強化のため、収入源である原油輸出に打撃を与えられる新たな措置が盛られており、大統領の判断で発動できる。/新たな制裁は、原油の輸出入でイラン中央銀行と取引する米国外の金融機関を、米国の金融システムから締め出す内容。原油取引でイラン中央銀を使う日本や中国、欧州各国にイラン産原油の輸入からの撤退を迫り、イランの収入源に打撃を与えることを狙う。/ただ、制裁の発動でイラン産原油の輸出量が急減した場合、輸入国が原油不足に陥ったり、油価が世界的に高騰したりしかねない。このため、米大統領が「米国の安全保障上不可欠」と判断すれば制裁を最大4カ月間停止できる運用上の余地も残した。また、イランとの原油取引に絡む決済を大きく減らした金融機関は制裁を免除される。>(1月2日、朝日新聞デジタル

 米国は、自国の消費に与える影響を十分考慮した上で、イランに対する経済制裁を決定したにもかかわらず、「あんたの国にもマイナスの影響があるぞ。対イラン制裁は逆効果だ」とねじ込む玄葉外相の対応は、同盟関係にある国家への配慮に欠ける。

 第三は、イラン制裁に関してクリントン長官が「運用について慎重に行っていきたい」という発言を玄葉外相が披露したことだ。クリントン長官がこのような発言をしたと報じられたのは初めてのことだ。

 イラン問題に関する米国の国民感情はとても厳しい。拉致問題を巡る北朝鮮に対する日本の国民感情のようなものだ。イラン制裁について米国政府は口では激しいことを言うが、「運用に関しては慎重に行っていきたい」と裏でクリントン長官が玄葉外相に伝えていたということが事実ならば、米議会で追及がなされる可能性が高い。また東京のイラン大使館も玄葉外相の記者会見の内容を本国に報告している。この会見からイランが米国は腰が引けていると判断するであろう。

 本件に関連して、筆者のもとに、クリントン長官はイラン制裁に関し、「運用について慎重に行っていきたい」と述べた事実はないという内部情報が寄せられている。この情報によれば、 ・・・ログインして読む
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筆者

佐藤優

佐藤優(さとう・まさる) 作家、元外務省主任分析官

1960年生まれ。作家。元外務省主任分析官。同志社大学神学研究科修士課程修了。外務省では対ロシア外交などを担当。著書に『宗教改革の物語――近代、民族、国家の起源』(KADOKAWA)、『創価学会と平和主義』(朝日新書)、『いま生きる「資本論」』(新潮社)、『佐藤優の10分で読む未来』(新帝国主義編、戦争の予兆編、講談社)など多数。

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