2012年01月24日
■一体改革を成し遂げよ
私は、消費増税を含む税制と社会保障の「一体改革」を成し遂げることが、野田政権に課せられた使命だと考えている。
理由は、この国の人口構成である。
日本は半世紀前、9人の「現役世代」で1人のお年寄りを支える「胴上げ」型社会だった。その後の少子高齢化によって、いまは3人で1人を支える「騎馬戦」型社会だ。2050年ごろには、1.2人で1人を支える「肩車」型社会になる。
「肩車」型社会に備えるために、もっとも大切なことは、増税ではない。肩車を担い続けることができるよう、若い世代の体力を育むことである。
彼ら彼女らが不安定な雇用を強いられていたのでは、税や保険料を払うことができず、お年寄りも支えられなくなる。結婚も、子どもを産むこともままならず、消費意欲もわかないようでは、日本社会はたちゆかず、国内市場も縮む一方になる。
だから、お年寄りに我慢してもらってでも、子育てや教育、若者の雇用の安定のために、社会の資源を大胆に振り向けるべきだ。一体改革の素案によれば、消費増税で得られる財源のうち7000億円を子育て支援などにあてるが、私は不満だ。まだまだ大胆さが足りないと思う。
とはいえ、増税が避けられないこともまた、まぎれもない事実である。
2012年度予算の歳出90兆円に対し、税収は42兆円、国債発行44兆円。これは、肩車を担わなければならない若い世代に、私たちのつけまで回すことにほかならない。増税から逃げていては、7000億円の財源も得られなくなる。
むろん、「むだの削減」はやってもらわなければならない。だがもし、身の丈にあわせて何十兆円も支出を削るなら、それはもはや、むだの削減ではない。国や自治体のサービスはあちこちで止まり、増税と同様、国民に痛みを強いることになる。
「増税か、むだの削減か」を選べる状況ではない。「増税も、むだの削減も」避けられないのである。
私は1989年に、朝日新聞社に入社した。バブル華やかなりしころ社会に出た、恵まれた世代だ。そんな世代の責任として、改革をよりよいものに練り上げながら、実行に移せるよう、後押ししなければならないと思っている。
■「フォロワー」にも責任
だから、私はいまのところ、野田佳彦首相を評価している。
鳩山由紀夫元首相は、つらい現実を説こうとはしなかった。政権交代の前後には、「4年間、消費税の増税を考えることは決してない」とまで言っていた。米軍普天間飛行場の移設先は「最低でも県外」だという発言もそうだ。実現する覚悟も周到な準備もないまま、目の前にいる人の歓心を買おうとするこの人の癖が、どれだけ政治を混乱させたことか。
菅直人前首相は消費増税を説いた。それは間違いではなかったが、やはり覚悟や準備が足りず、社会や国会の合意を形成する力を欠いていた。
野田氏は、この2人に比べれば、リーダーの資質を備えているようにみえる。政や官が「身を切る」改革はまだこれからだが、昨年暮れ、あのバラバラな民主党内を曲がりなりにも説き伏せ、とにもかくにも一体改革の素案をまとめた。
しかし、政治はこれからも、延々と混乱を続けるだろう。いまの政治はリーダーシップのみならず、フォロワーシップに問題を抱えているからだ。
民主党は、いったん方針を決めても、その方針のもとで結束しない政党だ。昨年8月の党代表選で、野田氏が消費増税を掲げて勝っても、年末の素案のとりまとめでは異論が噴き出した。これからも、何度も同じことが繰り返されるに違いない。
現に小沢一郎元代表は、ことしは「経済が厳しくなる」から、増税なんて決められないといっている。
これは現実をみない議論だ。いま心配されているのは、欧州の国々の債務危機が経済の危機に発展すること――国債の価値が下がり、国債を大量に保有している金融機関が危機に陥り、経済危機に至ること――だからである。日本も、いまのうちに財政立て直しの道筋をつけておかないと、いざというときに財政出動によるてこ入れができなくなるかもしれない。
それでも、おそらく小沢氏は仕掛けるだろう。その時は、国会が会期末を迎える6月ごろではないか。
■なにより「政策実現」を
1年前の6月を思い出そう。
東日本大震災後の混乱のさなか、野党が提出した菅内閣不信任決議案に、小沢氏のグループが同調しようとした。似たようなことが、ことし6月ごろ、また繰り返されるのではないか。消費増税法案の成否がかかる参院での採決や、おそらくは野田内閣不信任決議案の採決といった山場を迎えるとみられるからである。
もしも震災のあと、小沢氏がつぎのような振る舞いをしていたら、いまごろどんな政治状況になっていただろう。私は時折、そう妄想する。
まず、菅首相に
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください