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沖縄防衛局長の「講話」で露呈した自由権の侵害と国内植民地に対するまなざし

佐藤優 作家、元外務省主任分析官

 沖縄県宜野湾市長選挙に関して、真部朗沖縄防衛局長が「講話」を行った問題について政治家やマスメディアの関心は政局に与える影響に集中している。この視座だけから問題を見ていると、より事柄の本質を見失ってしまう。

 筆者の理解では、本件をめぐる事柄の本質は2つある。

 第1は、近代的な自由権原則に対する侵犯だ。

 第2は、東京の政治エリート(国会議員、官僚)とマスメディア関係者の無意識のうちに沖縄を国内植民地とみなすまなざしだ。

拡大参院の控室に入る沖縄防衛局の真部朗局長=2012年2月2日

 本質的な問題を印象論で語ってはならない。そのために2月2日、防衛省が公表した真部氏の「講話」要旨の全文を引用し、このテキストに基づいた議論をしたい。

真部沖縄防衛局長の「講話」要旨の全文

2012年2月2日10時14分

 真部朗沖縄防衛局長が1月に同局職員らに行った沖縄県宜野湾市長選に関する「講話」要旨は次の通り。防衛省が2月2日に公表した。

<沖縄防衛局長講話要旨

 本日、忙しい業務を抱えている中、お集まりいただき、ありがとうございます。時間も限られているので、なるべく簡潔にお話ししたいと思います。

 ご存じかもしれませんが、来る2月12日に、宜野湾市長選挙が予定されています。まだ確定していませんが、2人の候補が立候補する予定です。報道等によると、伊波洋一元宜野湾市長と佐喜真淳県議です。基地問題については、伊波氏は「県内移設反対、早期閉鎖・返還」を主張しています。佐喜真氏は、「現状固定化を断固阻止し、一日も早い危険性の除去と返還・跡地利用計画を強力に推進」するとしています。双方ともに「県外移設」を主張しています。

 宜野湾市は、普天間飛行場が所在しており、普天間飛行場問題の原点とも言うべき市であります。平成8年に橋本・モンデール会談で合意されて以来、この問題は、15年間以上にわたって日米両政府が取り組んできた重要課題です。日米合意上も、大きくは、平成8年のSACO最終報告から平成18年の米軍再編ロードマップに引き継がれています。この間、様々な移設案が検討され、最終的に辺野古のV字案が決定されました。その後、平成21年には政権交代があり、従来の移設案である辺野古のV字案が白紙的に再検討されました。この再検討過程を経て、一昨年5月に辺野古が移設先であることが改めて日米合意となり、昨年6月には「2+2」で、仕様の変更を伴ってではありますが、代替施設の形状についてV字案で合意されました。一方、この再検討過程を機に、この問題に対する沖縄県民の見方は厳しさを増し、現在では、辺野古案を始め県内移設に反対する声が一般的になっています。これに対して、政府は、その必要性をパンフレットなどを使って積極的に県や市町村、各種団体などに説明するとともに、訓練移転の拡充など一層の基地負担の軽減に取り組むことなどによって、県民の理解を得ようと努力しているところです。

 このような中で、宜野湾市の市長選は、普天間飛行場を抱える自治体の直近の民意が示される場として注目される重要な選挙と考えられます。

 皆さんは、自らが有権者であるか又は有権者を親族にお持ちの公務員です。公務員は、国民の権利である選挙権の行使、すなわち投票に積極的であるべきであります。私は職員に、「特定の候補者に投票しなさい」と言える立場ではありません。来るべき選挙には棄権を避け、期日前投票を含め、ぜひ投票所に足を運ぶようにしていただきたい。機会があれば親戚の方々にも投票所に行くようにお話ししていただきたい。一方、公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではありません。選挙に際しては、政治的中立性の確保が要求されます。自衛隊法等の関係法令に違反したり、違反していると思われないよう留意をお願いしたい。親戚の方々と接する際にも気をつけていただきたい。

 以上、まとまりのない話で申し訳ありませんが、よろしくお願いします。

(注)本要旨は、局長の記憶に基づいて作成し、講話参加者66名のうち50名に確認した内容を反映したものである。>(2月2日、朝日新聞デジタル

 ここで真部局長は、「公務員は、国民の権利である選挙権の行使、すなわち投票に積極的であるべきであります。(中略)来るべき選挙には棄権を避け、期日前投票を含め、ぜひ投票所に足を運ぶようにしていただきたい」と述べている。

 朝日新聞を含む全国紙、琉球新報、沖縄タイムスも真部局長が、棄権を避け、投票に積極的に参加することを促したことを批判していないが、実はここに近代的人権の自由権を侵害する深刻な問題が潜んでいる。

 自由権の基本は、宗教、思想、心情の自由だ。これは、自分が心の中で思っていること、考えていることを表現する自由であるとともに、表現しない自由でもある。特に公権力によって、内心で何を思い、考えているかについて、表現しない、沈黙の自由が自由権の基本だ。

 旧ソ連や社会主義体制時代の東欧諸国で、選挙の投票率は99パーセントを超えた。社会主義国でも、秘密投票は保障されていた。東ドイツ、チェコスロバキアなどでは複数政党制がとられていた。しかし、民意が政治に反映されることはなかった。それは国家権力が国民に投票を強く要請(事実上の強制)することによって、棄権の自由を認めなかったからだ。

 高級官僚が、部下に対して、勤務時間内の「講話」という形で、職務の一環として投票を促すこと自体が自由主義原則に対する国家権力による侵害である。政治的自由は、選挙に行くか行かないかを含め、すなわち棄権の自由を含め、完全に保障されなくてはならない。

 第二は、なぜこのような「講話」がなぜ沖縄防衛局で行われているかということだ。この点について掘り下げて考えれば、無意識のうちに沖縄を国内植民地とみなす東京の政治エリートのまなざしとそのまなざしに無批判なマスメディアの姿が浮かび上がる。

 鈴木宗男・新党大地代表が、 ・・・ログインして読む
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筆者

佐藤優

佐藤優(さとう・まさる) 作家、元外務省主任分析官

1960年生まれ。作家。元外務省主任分析官。同志社大学神学研究科修士課程修了。外務省では対ロシア外交などを担当。著書に『宗教改革の物語――近代、民族、国家の起源』(KADOKAWA)、『創価学会と平和主義』(朝日新書)、『いま生きる「資本論」』(新潮社)、『佐藤優の10分で読む未来』(新帝国主義編、戦争の予兆編、講談社)など多数。

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