2012年02月16日
はるか昔のことだが、私が学生時代、就職活動は企業側が大学を選んで応募書類を大学事務局に配分する「指定校制度」のようなものが幅を利かせていた。大学には限られた枚数の応募書類しかない。今から考えると企業側が大学によって学生を差別する不平等極まりないやり方ということだろうが、こちらはそんなことも言っていられない。応募する業界や企業を入念に選び、1枚1枚、真剣に書いた記憶がある。
ただマスコミだけは筆記試験が優先され、誰でも受けることができた。だから、50倍、100倍という倍率となり、筆記試験に通らなければ面接にたどり着けなかった。そんな中、岩波書店だけは採用試験に応募しようとすると大学教員ら岩波書店の著者の推薦のようなものが必要だった。
他のマスコミに比べると、単なる倍率の高さというハードルとは次元の異なる難しさを感じた。明確な動機と相当のやる気を持っていない学生は採用しないという企業側の強い意思とプライドが伝わってきたことを覚えている。
この手法を最近、岩波書店が復活させたため、一部で「縁故採用だ」「コネ採用だ」と問題になっている。いったい何が問題なのか私にはまったく理解できない。
岩波書店の知人に聞くと、出版業界の不況もあって岩波書店も数年間、新規採用を取りやめていて、採用は昨年から再開し、その際、かつてのように著者らの紹介状を応募資格に追加したそうだ。その最大の理由は応募者の急増だという。
ネット時代、学生にとって企業への応募が格段に容易になった。岩波書店も例外ではなく数人の採用に1000を超す応募があり、提出された作文に対して、採点の担当となった社員が休日返上で数日間かかりっきりとなる。今回の「紹介状」は、「とにかく出せる企業にはできるだけ応募してみよう」という本気度の低い学生の応募を回避するための苦肉の策のようだ。
数百人の学生を採用する企業ならともかく、採用数がさほど多くない岩波書店が、大物作家の紹介だからといって出来の悪い学生を次々と採用していたのでは、会社の将来がおぼつかないことは明々白々だろう。厚労省は事実関係を調査すると言っているそうだが、同じマスコミ業界には、かねて政治家の子弟を多く採用していると言われていたり、取引先の幹部の子弟を大量に採用していると言われている会社があるのは周知の事実。そちらの方が問題ではないか。
●就活ナビサイトの弊害
それはともかく、学生の就活の様子を見ていると、10年ほど前に一気に広まった就活ナビサイトの弊害はますます深刻になってきているとしか言いようがない。
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