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アメリカ海兵隊の行方――普天間は固定化されるのか

小谷哲男 小谷哲男(NPO法人岡崎研究所特別研究員)

 日米両政府は2月8日、米海兵隊普天間飛行場の移設と在沖海兵隊のグアム移転を切り離し、海兵隊のグアム移転を先行させることで合意した。これまでの報道によれば、4700人程度の在沖海兵隊がグアムに移転し、残りはハワイ、オーストラリア、フィリピン等にローテーション配備される方向で検討されている。当初、移駐する海兵隊員は司令部要員が中心とされていたが、今回の計画変更にともない、移駐するのは戦闘部隊中心となるようである。

 今回の合意に関しては、普天間の固定化と抑止力の低下の可能性が指摘されている。また、アメリカが海兵隊をグアムやオーストラリア等に分散させる理由として、沖縄が中国のミサイル攻撃に脆弱であるという点が指摘されている。

訓練を公開した米海兵隊=2012年2月13日、大分・日出生台(ひじゅうだい)演習場

 しかし、今回の日米合意の含意を理解するためには、変容する海兵隊の戦略に目を向けなくてはならない。

 2011年3月14日に、海兵隊は兵力見直し報告書を発表した。この報告書は、厳しい財政状況の中で、イラク・アフガニスタンでの対テロ戦争によって「第二の陸軍」となってしまった海兵隊を本来の水陸両用部隊に戻すことを目的としている。対テロ戦争を通じて、海兵隊は総数が2万人増え、装備は重くなり、上陸作戦を経験したことのない隊員も増えてしまった。このため、エイモス総司令官は報告書の冒頭で機動力と打撃力を兼ね備えた「中量級戦力」の確立を目指すと述べている。

 ちなみに、2010年に海兵隊総司令官となったエイモス大将は歩兵ではなく飛行機乗りであるが、これは1775年に始まる海兵隊史上初めてのことである。海兵隊はアメリカ国内においても常にその存在を疑問視されてきたため、自己改革を通じてその存在意義を見いだしてきた。この飛行機乗りの総司令官の誕生は、海兵隊がさらに変革しつつあることを暗示している。

 海兵隊の兵力見直し報告書の要旨は、以下の通りである。

・総数は約20万から18.5万人に削減

・33隻の揚陸艦(本来は38隻必要)、海軍の他のプラットフォームとの連携模索

・地上部隊13%減(歩兵隊11%減、砲兵隊20%減、機甲隊20%減)、固定翼部隊16%減、補給部隊9%減

・無人機25%増、特殊部隊44%増、サイバー空間司令部強化、法執行部隊創設、偵察・監視能力の強化

・前方プレゼンスと緊急対処を重視

・訓練機会の増大、同盟国・友好国の能力構築支援

・事前集積船団と航空輸送力の最適化

・分散した部隊を即座にMAGTF(海兵陸空任務部隊)化

 以上のように、海兵隊はより小規模の部隊を前方に分散させ、機動展開を重視することを重視するようになっている。これにともない、アメリカ東海岸に拠点を置く第二海兵遠征軍から7000人削減されることが検討されている。

 2011年11月には、オバマ大統領がオーストラリア訪問中にダーウィンへの海兵隊の駐留計画を発表した。今年後半には250人程度の海兵隊がダーウィンに駐留を始め、数年後には2000人規模に拡大する予定である。この決定は、アメリカのアジア重視という方針を裏打ちするとともに、地域のより多様な事態に即応できる態勢を整えることを目的としている。

 2012年1月5日にオバマ大統領が発表した新アジア戦略では、海兵隊の総数がさらに削減され、約18万人になることが明らかとなった。アメリカ議会の予算削減をめぐる交渉が決裂したため、アメリカは今後10年で約5000億ドルの国防予算を削減しなくてはならないが、これによって海兵隊は15万人にまで総数を減らさなくてはならないという見方もある。

 普天間移設切り離しに関する日米合意は、以上のような流れを踏まえた上で考察されるべきである。

 まず、グアムに移駐する海兵隊の規模を縮小して残りを分散させることは、すでにみたように前方プレゼンスと緊急対処能力の維持、訓練機会の拡大及び同盟国・友好国の能力構築を目指す海兵隊の新しい戦略に沿ったものである。アメリカは普天間移設を切り離すことで、議会が凍結したグアムの整備費用を要求することもできる。また、グアム当局の環境影響評価により、移駐する海兵隊の規模は4000人程度が適当とされていたので、環境破壊を最小限に抑えることも可能となる。

 ただし、海兵隊を分散してもそれに合わせて中国のミサイル配備も変更されるため、ミサイルの脅威は変わらない。沖縄が中国のミサイルの脅威にあることは、今回の流れの大きな理由ではない。ミサイルの射程距離よりも、沖縄が非協力的なのに対して、オーストラリアとフィリピンが米軍を歓迎している政治的な事実がより大きな要因である。

 次に、抑止力は維持できるのであろうか。

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