メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

自衛隊は3・11の「戦訓」を活かせるか(下)――防護装備、無人機、輸送、燃料

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 前回に引き続き、東日本大震災で露呈した自衛隊の弱点、組織的な欠陥、装備調達の欠陥を検証する。

 福島の原発事故に際しては、大量のNBCスーツ(対核・生物・化学防護服)が必要だったが、自衛隊には備蓄がほとんどなく、米仏から急遽供与を受けた。

 また自衛隊のNBC防護装備を持った装甲車輛はクーラーがなく、夏場はわずか30分しか活動できない。これでは実質的に役に立たない。そもそも多くの装甲車輛がNBC防護装備をもっていない。

 我が国が想定する優先順位の高い有事のシナリオは、ゲリラや特殊部隊による破壊工作だが、その中には原発の破壊も含まれている。また北朝鮮による核弾頭あるいは放射性物質を搭載した弾道ミサイルの攻撃というシナリオも挙げられる。自衛隊はこれらのシナリオに対して真剣に備えをしているとは思えない。

 UAV(無人航空機)やUGV(無人車輛)、UUV(無人潜航艇)といった無人機なども自衛隊は導入が遅れている。

 陸上自衛隊で導入されていたヘリ型UAVは、大災害やNBC状況の偵察のために開発されたという鳴り物入りで導入されたが、震災では一度たりとも飛ぶことがなかった。

 繰り返すが数百億円の開発費・調達費をかけて導入し、防衛省のウェブサイトの事業評価で自画自賛していたUAVが「有事」に一度も飛ばなかったのだ。

 多くの国民は我が国がロボット技術の先進国であるから、自衛隊もそうであろうと漠然と思っているだろう。だが自衛隊の無人機の導入や運用は、ポーランドやチェコ、日本からODAを受けているトルコはもちろん、中国の人民解放軍からも大きく遅れを取っているのが現実だ。

 自衛隊の無人機導入が遅れ、まともな物ができていない原因の一つは、国内の防衛産業に無理に開発させようしているからだ。このため時間やコストがかかり、実戦的なものが開発・調達できない。

拡大無人機のスキャンイーグル=ボーイング提供

 ゆえに、先の大震災では外国製や民間で使用されている無人機が活躍することとなった。

 さすがに防衛省も補正予算で、原発の偵察で活躍した国内のフジインバック社のUAVや、ボーイングのUAVやスキャンイーグル、iロボット社のパックボットらを少数導入した。これは防衛省技術研究本部(技本)が中心となって行なってきた無人機開発が失敗だったという証左である。

 スキャンイーグルもパックボットも代理店は双日だが、第三次補正予算では、それぞれ主契約社は三菱重工、技本とUGVを開発してきた日立となっている。

 恐らくはライセンス生産を考慮してのことだろうが、調達コストは少なくとも商社が輸入する1.2倍にはなるだろう。

拡大福島第一原発2号機の原子炉建屋出入り口の扉を開けて中へと進む遠隔操作ロボット「パックボット」=東京電力提供

 そもそも補正予算は緊急に必要なものを調達するためのものだ。このような緊急を要する装備は、ある程度の数をまとめて輸入すべきだ。そのほうが安く、速やかに戦力化できる。悠長にライセンス生産をするのであれば、補正予算で調達する意味はない。通常の予算で要求すべきだ。

 ライセンス生産するならば、調達数がかなり増えないと割に合わないが、防衛省はこれらをどの程度調達するのか明らかにしていない。

 これらは調達数もそれほど多くないし、しかも仕様変更が行われることが常なので、ライセンス生産には適さない。つまり、これらの装備を無理やりライセンスするメリットはほとんどない。

 航空自衛隊の輸送機C-2調達も同様に問題がある。C-2はトラブルのために開発が遅れているが、既に6機が発注されている。そのうち2機は第三次補正予算で調達されている。

 だが、航空幕僚監部は平成24年度予算でC-2の機体強度の問題解決のために58億円を要求している。つまりこの予算は第三次補正予算の後に要求されているのだ。

 これではC-2の量産が可能となるのは早くても平成25年からということになり、補正予算で調達する意味はない。

 しかもC-2は舗装された滑走路でしか運用できない。これは空自の運用に基づいたものだが、軍用輸送機としては極めて異常で、有事を想定していないとしか言いようがない。

 仮に震災時にC-2が既に運用されていたとしても、被災した仙台空港や松島の空自基地などでは離着陸出来なかっただろう。

 空幕は24年度の予算でもC-2を2機要求している。対して海上幕僚監部は同様に開発が難航している哨戒機、P-1の24年度予算での調達を断念している。装備の調達は何らかの目的のために行われるが、C-2の調達は、調達が目的化しているように思われる。

 海自は補正予算でYS-11の後継として中古のC-130の導入を決定した。だがYS-11の後継機の導入は震災が原因ではない。既定のプログラムであり、急ぐ必要はなかった。この決定は仙谷由人元内閣官房長官に近い人物が強力にプッシュしたという情報もあるが、それが真実ならば大きな問題だ。

 燃料も問題がある。災害の現場で活動していた陸自部隊ではその初動において燃料が枯渇寸前まで追い込まれた。戦時であれば戦車や重装甲車輛なども投入されていたので、燃料の不足はより深刻だったはずだ。

 その直接的な原因は海自の輸送艦の不足や、民間船を利用しての燃料輸送の法整備に欠陥があったからだ。今回有事の際に燃料を確保するため兵站能力が欠如していることが明らかになった。そもそも自衛隊には有事を想定した燃料の備蓄が存在しない。

 仮に首都直下地震でも起これば、自衛隊用に必要とされる燃料は桁外れに増えるはずだ。しかし、 ・・・ログインして読む
(残り:約1035文字/本文:約3258文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

清谷信一

清谷信一(きよたに・しんいち) 軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家。1962年生まれ。東海大学工学部卒業。03~08年まで英国の軍事誌Jane's Defence Weekly日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関、Kanwa Informtion Center上級顧問。日本ペンクラブ会員。著書に『専守防衛─日本を支配する幻想』『防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『自衛隊、そして日本の非常識』『ル・オタク フランスおたく物語』、共著に『軍事を知らずして平和を語るな』『アメリカの落日―「戦争と正義」の正体』『すぐわかる国防学』など。最新刊に『国防の死角――わが国は「有事」を想定しているか』。

清谷信一の記事

もっと見る