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永遠に続きそうなJYJモグラたたき――情が支配する韓国芸能界の人間絵図

小北清人 朝日新聞湘南支局長

 先日、韓国大手メディアの芸能記者たちから、韓国芸能界の裏話を聞きました。日本の韓流ファンには旧知のことかもしれませんが、なるほどやっぱり、それはいかにも、韓国的な、古めかしいまでの、情と、カネと、暴力の世界でありました。

 いったん感情がこじれると、何でもあり、生きるか死ぬか、敵を殲滅するまでやめない。裏に巨額のカネがからめば、怒りの情はさらにヒートアップ。日本人から見たら、「そこまでやるか」と呆れるやら、感心するやら、ですが、それこそが彼らの世界なのでありましょう。

 まず、韓国芸能界最大手の芸能事務所、SМエンタテインメントについてです。東方神起や少女時代など、たくさんの人気タレントを抱えるSМ社は、芸能記者たちにとって、容易に批判できないアンタッチャブルな存在になっています。

 同社の総帥で、大株主でもある李秀満(イ・スマン)氏は、同社の株式上場によって、いまや韓国芸能界指折りの大金持ちと言われています。

 その李秀満氏が、今もなお、「絶対に許さない」と思っているのが、東方神起から分裂したJYJの3人です。

 5人組の人気アイドルグループ、東方神起のメンバーだった3人が、SМエンタテインメントとの契約を「長期にわたる奴隷契約だ」と専属契約の効力停止仮処分をソウル地裁に求めたのは、2009年7月のこと。あれからもうすぐ3年ですが、裁判が最終決着しないまま泥沼化する一方で、3人が結成したJYJはいまもテレビの歌番組に全くといっていいほど出られない状態が続いています。

 今年に入ってからも、韓国某テレビ局の歌番組に3人が出ることになっていたのに、突然、局側からキャンセルされたといいます。

 その背後にはSM社の隠然たる影響力があるのは間違いないようで、「ウチの少女時代を出演させるから、JYJを出さないでほしい」といった要請がテレビ局になされ、局側もそれに乗るというわけです。

 3人が契約解除をソウル地裁に訴え出て、分裂が表面化して以来、SМ社は社内に「特別チーム」をつくり、3人がテレビに出るらしいと察知するや、「出演阻止」に動くという、モグラたたきのような作業を繰り返しているという話です。

 有望なタレント志望者をスカウトし、練習生として何年間も会社側の持ち出しで歌やダンスを鍛え上げ、アイドルグループとして芸能市場に投入するシステム(孵化システムといいます)を維持するためにも、タレントが公然と反旗を翻したらどうなるか、「見せしめ」の意味でも懲らしめなければならない。「特別チーム」を維持し続けるSМ社の動きには、そんな強い意志を感じざるを得ません。業界をリードする李秀満会長自身のプライドもかかっているのでしょう。

 そもそもSМ社からの脱退劇は、当初はメンバー5人全員が加わっていたといわれています。ところがうち2人は事務所の説得で翻意し、残る3人が決行に踏み切ったということでした。「事務所に残る2人より、自分たち3人の方が人気があるから大丈夫だ」。3人はそんな自信を持っていたようです。

 でもその一方で、3人には不安もかなりあって、「SМ社の影響力からして、とても韓国では芸能活動を続けられないだろう」と干される覚悟もしていたんですね。

 そこで彼らが頼ったのが、日本の大手芸能事務所、エイベックス社でした。エイベックス社は、5人だった東方神起の日本での芸能活動をマネージメントしており、彼らの日本でのブレークを支えた事務所です。「日本でならSМ社と関係なく、思い切り活動できる」と3人は考えたようで、それにはエイベックス社も否定的ではなかったようです。何といっても彼らは日本で人気がありましたから。

 ただ、エイベックス社の態度が、「3人でもOK」だったのか、「5人全員でないと困る」だったのかは、必ずしもはっきりしません。「SМ社との決別」を決めた3人が裁判所に訴えるのを、エイベックス社が事前に知っていたかどうかも、はっきりしません。ですが、いずれにせよ、賽(さい)は投げられたわけです。

 当然ながら、SМ社とエイベックス社の関係は悪化しました。それを証明するかのように、SМ社が鳴り物入りで日本進出を図ったエース、少女時代の日本でのCDはエイベックス社からでなく、ユニバーサル社から発売されることになりました。

 最終的に、両社は「手打ち」に向かいます。ある韓国芸能記者によりますと、

 「エイベックスの社長がソウルでSМ社の李秀満社長と会い、一緒に酒を飲んで和解した」

 日韓の大手事務所同士がタレントの権益でケンカを続けても何も特になることはない、ということなのでしょう。

 2010年9月、エイベックス社はJYJの日本での活動を「当分の間、休止する」と発表しました。契約は維持しつつも、事実上の「飼い殺し」にするというわけでした。

 その際、同社が理由のひとつに挙げたのが、脱退後の3人をマネージメントしているB氏の存在です。

 このB氏、自身も暴力団の出身で、父親はかつてソウルの3大暴力組織のひとつと恐れられた組織の元大幹部、いまも闇社会に隠然たる影響力を持つ人物だといいます。

 そんなB氏の経歴に加え、同社が挙げたのが、2007年にB氏が人気俳優クォン・サンウを脅したとして起訴、服役した一件です。

 B氏は03~05年にクォン・サンウのマネジャーを務めたことがありますが、やがて関係が悪化、

 「自分と新たな専属契約を結ばないと、お前のスキャンダルを暴露してやる」

 とクォン・サンウを脅し、

 「マネジメントをB氏に任せる。もし約束を破れば10億ウォンを払う」

 と念書を書かせたという事件です。

 父親の存在をバックに迫るB氏に対し、クォン・サンウ側も

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筆者

小北清人

小北清人(こきた・きよひと) 朝日新聞湘南支局長

朝日新聞入社後、大阪社会部、AERA編集部などを経て現在、朝日新聞湘南支局長。92~93年、韓国に語学留学。97年、韓国統一省傘下の研究機関で客員研究員。朝鮮半島での取材歴多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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