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金正恩氏の高笑いが聞こえる――ミサイル迎撃実験の真の目的とは?

谷田邦一 ジャーナリスト、シンクタンク研究員

 北朝鮮が予告する人工衛星「銀河3号」の打ち上げがカウントダウンに入った。朝鮮中央通信が伝えるように、「農業や天気予報の研究」が目的の人工衛星の軌道投入なのか、それとも北米大陸に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発実験なのか。世界中が成り行きを見守っている。

 宇宙ロケットと弾道ミサイルはどう違うのか。それぞれの目的は「衛星の運搬」「敵地の攻撃」と異なるものの、用いる技術はほぼ同じ。ただし飛行軌道には少し違いがある。弾道ミサイルは、飛距離を最大化するため高い角度で打ち上げるのに対し、宇宙ロケットは、地球を周回させる必要から、弾道ミサイルより低い大気圏外を秒速約8キロで水平飛行させなければならないとされる。

 その判別は、搭載した衛星が地球の周回軌道に乗り、地上でテレメトリー(信号)を受信できれば容易なのだが、そうでないと断定はなかなか難しい。かくして1998年以来、過去3度のテポドン・シリーズの打ち上げは「ことごとく失敗」で、いずれも北米大陸に届く長距離ミサイルの開発プロセスの一環という評価が日米韓などで定着している。

 北朝鮮はICBMの開発途上であることは否定しようがないが、本当に「失敗」とまでいえるのか。

 2009年の前回の飛行距離は、1998年の約1600キロの2倍となる3000キロ以上にのびた。09年の第1段目のエンジンは、日本を射程に収める中距離弾道ミサイル「ノドン」のエンジンを4基つけた集束型となり、推力が大幅に強化されていた。韓国メディアは、米国の偵察衛星情報として、今回のロケットの全長が前回の約30メートルを上回る約40メートルと報じている。推力や飛行距離はさらに向上しているとみるのが自然だろう。ICBMとしての性能は着実に増している。

 ロケット工学の専門家で宇宙工学アナリストの中冨信夫氏は、「中ロから導入した古い技術を磨き上げるやり方で確実に進歩している。怖いほどの前進だ」と話す。その上で、今回を含め4度の打ち上げはすべて「ICBM開発のための偽装実験」とみなす。

 朝鮮半島の西側、黄海に面した新たな東倉里(とん・ちゃん・り)ロケット発射場を用い、南方向に打ち出すことにも大きな意味がある。北朝鮮が予告する飛行コースは、韓国の西側海上の上空を通過し、約2500キロ先のフィリピン東方の公海上に第2段ロケットを落下させるという想定だ。北朝鮮はこれまで地球の自転を利用し、より容易な東方向に打ち出していたが、あえて難易度の高い南方向に変えた。なぜなのか。

 東倉里から東向きに発射すれば、第1段ロケットが自国領土に落ちる恐れがあるばかりでなく、日本上空を飛び越え再び国際社会の強い非難を浴びることを覚悟しなければならない。韓国が衛星打ち上げの際に使うのと同じ方角で、最も反発の少ないコースを選んで「政治的な判断」(北韓学の専門家)を下したのではないか。しかし、ここには北朝鮮のしたたかさが見え隠れする。中冨氏はこう考えている。

 「南北を結ぶ極軌道に投入するということは、すなわち北朝鮮から北極上空を越えて北米大陸を射程に収める最短コースを意識していることを意味する」

 つまり米国に対し警告の意味を込めたというわけだ。今回の発射実験こそ「米国本土攻撃への王手」と断じる。

 迎え撃つ周辺国に目を転じてみよう。北朝鮮の異様ぶりは毎度のことだが、周辺国の入れ込みようも尋常ではない。東アジアには、かつてない規模で巨大なミサイル迎撃網が築かれつつある。日米韓3カ国に加え、台湾までもが刻々と重層的な迎撃態勢の整備を急いでおり、さながら壮大な「BMD(弾道ミサイル防衛)実験場」と化したかのような様相になっている。

 迎撃網の中核になるのは日米のBMD協力。連日、こってりした報道合戦が続くが、おさらいしてみよう。

 まずは早期警戒情報について。端緒は、高度3万6000キロの静止軌道にいる米軍の早期警戒衛星(DSP)がキャッチする情報だ。ミサイル発射と同時に着弾地点を割り出したり、ミサイルの性能を分析したりすることができる。その情報をもとに、海上と陸上の迎撃部隊が対処する仕組みで、沖縄や鹿児島などにある航空自衛隊の警戒管制レーダーFPS5も、地上からミサイルの動きを把握し日米間で共有される。

拡大沖縄県宮古市の市街地を移送されるPAC3=2012年4月3日

 そうした情報をもとに、上層では日米の複数のイージス艦が迎撃ミサイルSM3で、下層では航空自衛隊や米陸軍の地対空誘導弾PAC3が2層方式でカバーする。日本のPAC3は、沖縄・先島諸島と首都圏あわせて7カ所に配備する念の入れようだ。とりわけ落下の可能性がある沖縄周辺には、3隻のイージス艦に加え、PAC3部隊の要員約700人が展開する物々しい態勢になる。

 米軍の態勢はさらに手厚い。CNNによると、ハワイのパールハーバーに係留されていた海上配備型のXバンドレーダーSBXが出港したという。配備先は明らかではないが、最大で約2000キロの距離から飛行物体をとらえる能力があるとされ、飛行コース周辺でミサイルの軌道を追尾させるためとみられる。さらに3月末、弾道ミサイルの発射を観測できる電子情報収集機RC135Uを沖縄の嘉手納基地に前進配備。2011年末からは弾道ミサイル観測機も配備を続けている。

 お隣の韓国も最高度に警戒態勢を高めている。通過予想地域の島の住民を防空施設に避難させる計画があるという。また同国の国防部は領土内にミサイルが飛来するような場合に備え、黄海にイージス艦2隻を配備し、対空ミサイルによる迎撃を検討している。ミサイル発射と連動して挑発行為を重ねる場合に備え、巡航ミサイルによる反撃を加えることも検討しているという。

 さらに台湾も準戦時態勢で臨む。現地からの報道によると、台湾国防部は低層での迎撃システムとしてPAC3と天弓3を台湾東部の野戦陣地に移動させて訓練を行っているという。

 さながら米国を中心に、日本、台湾、韓国が共通する脅威に対し軍事的に相互協力する集団自衛の構図に映る。たかが全長40メートル程度の人工衛星を積んだ飛翔体に対し、なぜここまで各国が軍隊を動員してまでしゃかりきになるのか。

 もし前回並みに約3000キロ飛ぶとすれば、その中間地点にあたる先島諸島あたりの高度は約500キロ。はるか宇宙空間を飛行するだけ。イージス艦が発射するSM3で確実に命中できる距離は100キロ余りとされるため、確実な迎撃にはほど遠い。

 なぜこんなに過剰な態勢を取るのかが、国民には十分に説明されていない。本音はどこにあるのか。

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筆者

谷田邦一

谷田邦一(たにだ・くにいち) ジャーナリスト、シンクタンク研究員

1959年生まれ。90年、朝日新聞社入社。社会部、那覇支局、論説委員、編集委員、長崎総局長などを経て、2021年5月に退社。現在は未来工学研究所(東京)のシニア研究員(非常勤)。主要国の防衛政策から基地問題、軍用技術まで幅広く外交・防衛問題全般に関心がある。防衛大学校と防衛研究所で習得した専門知識を生かし、安全保障問題の新しいアプローチ方法を模索中。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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