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火力戦闘車の開発は必要か(2)――優先すべき島嶼防衛

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 陸上自衛隊幕僚監部(以下陸幕)は、牽引型155ミリ榴弾砲FH-70の後継として、「火力戦闘車」だけではなく、島嶼防衛に必要な105ミリ軽砲や155ミリの超軽量砲など軽量砲も欲している。だが、その両方を一度に要求すると財務省の理解が得られないとして、「火力戦闘車」を優先させたようだ。

 しかし合理的に考えるならば、まずもっとも緊急性が高い島嶼防衛に必要で、現在存在しない超軽量砲の調達を優先すべきだ。その前に、まず軽量砲と「火力戦闘車」を、それぞれのどの程度調達するかを決定する必要がある。

 そのためにはまず、水陸両用部隊の具体的なドクトリン(戦闘教義)を開発し、サイズや編制を決定し、あわせて具体的な島嶼防衛のアウトラインを決定する必要がある。

 だが現段階では陸幕ではその現実的な検討は遅れている。陸自の富士学校でも研究はされているが、2011年11月に行われた発表会の内容は、社団法人「防衛装備工業会」のGAT研究会が作成した島嶼防衛の研究レポートに沿った内容であり、あまり独自の研究を行っているようには思えない。

 ソ連が崩壊して20年以上経つ。前防衛大綱でも島嶼防衛は謳われていたが、陸自はほとんど具体的な努力をせず、「冷戦型」の編制、装備の変革に不熱心だった。

 陸幕、統合幕僚監部で本格的な研究を行い、異なる現実的なシナリオを設定し、早急に必要な部隊、装備、訓練などを見積もり、予算化すべきだ。

 ところが今年度予算でもそのような予算は要求されていない。つまり運用構想も固まっておらず、調達数も不明な装備の開発予算を要求しているのだ。

 調達数によっては双方とも輸入のほうが有利という場合もあるだろう。はじめから輸入の可能性を排除し、装輪自走榴弾砲の国産自体が目的化しているとしか思えない。陸幕がまともに実戦を想定しているともとうてい思えない。

 現防衛大綱では火砲の数は前大綱の600輌(門。大綱別表では火砲の数を、「両(輌)で表している)から400輌に減らされている。

 この中には約100輌の多連装ロケット発射システム、MLRS(Multiple Launch Rocket System)も含まれている。MLRSを削減しない前提であれば必要とされる榴弾砲は約300両になる。

 陸自の保有する榴弾砲は現状、退役中の75式自走155ミリ自走榴弾砲が約40輌、203ミリ自走榴弾砲が約90輌、99式自走155ミリ榴弾砲約70輌、牽引砲である155ミリFH-70が約400輌と、4種類、約600輌が存在する。MLRS分を差し引くと、これらを10年後までに約400輌まで減らす必要がある。

拡大203ミリ自走砲は砲弾一発あたりの破壊力は大きいが、射程は155ミリ砲とさほど変わりはなく、他の榴弾砲との互換性もない。旧式化も進んでいる。早期に退役させるべきだ=筆者提供

 教育・兵站を考慮すれば火砲の種類を統合する必要がある。まず他の砲と口径の違う203ミリ自走榴弾砲はすべて退役させ、榴弾砲はすべて155ミリに統一すべきだ。また旧式化し射程が短い75式も退役を急がせるべきだ。こうして将来的には榴弾砲は超軽量の牽引砲と火力戦闘車(簡易型自走榴弾砲)、99式の3種類に絞るべきだ。

 先に述べたようにMLRSを除くと、榴弾砲の定数の枠が300輌しかない。そのうち装軌式自走砲である99式が合計約130輌調達される予定だ。このため新たな火砲の定数の枠は約170輌程度しかないことになる。これを島嶼防衛用の軽量砲と「火力戦闘車」で分け合う必要がある。

拡大米軍が採用したMRLSシステム、HIMARS=ロッキード・マーチン提供

 ところが陸幕が

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筆者

清谷信一

清谷信一(きよたに・しんいち) 軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家。1962年生まれ。東海大学工学部卒業。03~08年まで英国の軍事誌Jane's Defence Weekly日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関、Kanwa Informtion Center上級顧問。日本ペンクラブ会員。著書に『専守防衛─日本を支配する幻想』『防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『自衛隊、そして日本の非常識』『ル・オタク フランスおたく物語』、共著に『軍事を知らずして平和を語るな』『アメリカの落日―「戦争と正義」の正体』『すぐわかる国防学』など。最新刊に『国防の死角――わが国は「有事」を想定しているか』。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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