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【北大HOPSマガジン】内憂外患のオランド新大統領

鈴木一人 鈴木一人(北海道大学公共政策大学院教授)

 大方の予想通り、2012年5月6日のフランス大統領選第2回投票において、フランソワ・オランドが51.62%の得票で勝利した。しかし、オランド新大統領の前には多くの問題が横たわっている。オランドはどのようにユーロ危機や国内問題に対処していくのであろうか。また、日仏関係にどのような影響を与えるのであろうか。

【実現困難な公約】

 オランドはEUの財政規律条約の見直しを訴え、公務員雇用の増加を含む、2兆円に上る財政出動を公約として掲げているが、すでにドイツは財政規律条約の見直しには反対の立場を示しており、その実現可能性は低い。フランスの財政赤字は昨年度で対GDP比5.2%とEU各国の平均よりも高く、財政規律条約に照らしてみても大幅に超過している状況にあり、これ以上の財政支出は市場の反発を招くということも明らかである。

 それはすなわち、オランドの展開しようとしている政策がすぐに実現できるような状況ではなく、早急な結果を求めるオランド支持者の期待を早々に裏切る結果になる可能性があるということである。

 ただでさえ、足元の支持基盤が脆弱であり、熱狂的な支持というよりは、反サルコジ感情とライバルの脱落によって大統領の座を獲得したオランドが政権運営に失敗することになれば、その批判は激しくなることが明白であり、それは結果として、今回の大統領選挙で出てきた左派連合のメランションや国民戦線のルペンなどのポピュリスト的政治家への支持を高める結果となるであろう。

 それが大きな問題となるのは6月上旬に予定されている総選挙の結果に大きく反映されると考えられる。フランスは大統領が行政権のすべてを握っているわけではなく、議会に責任を持つ内閣を組閣する必要があるが、その内閣は総選挙の結果によって大統領与党である社会党ではない内閣になる可能性がある(コアビタシオン)。

 そうなると、オランドの政権運営は困難を極めることになると考えられる。コアビタシオンはこれまでも3度経験しているフランスであるが、その場合、大統領は政権を超越した「国父」としての立場で大局的な判断や外交政策を展開し、内政に関しては内閣が担当するという分担がなされるのが一般的になっている。が、カリスマ性に乏しく、国民的なコンセンサスを得て大統領になったわけではないオランドが「国父」の役割を果たすことができるかどうかは疑問である。

【ユーロ危機と対独関係】

 ユーロ圏の危機はいまだに継続しており、とりわけフランス大統領選と同日に行われたギリシャの総選挙の結果は、これからのユーロ圏における混乱を予見させる結果となった。こうした不安に対して、ユーロ圏全体として安定性を示すことができなければ、今後のユーロに対する市場の反応は極めて不安定なものになると考えられる。

 それはすなわちオランド新政権の選択の余地を減らし、ドイツを中心とした財政緊縮策をより強く実施することを求められることになる。そうなった場合、オランドが主張してきた財政支出の増大や財政規律条約の改正といった政策を実施することは事実上不可能となるであろう。

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