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火力戦闘車の開発は必要か(最終回)――自衛隊の弱体化?

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 我が国本土における対ゲリラ・コマンドウ作戦を主眼におけば、火砲は射程の延長よりも精密さが要求される。また多数の敵砲兵からの本格的な射撃もないので、さほど生存性を上げる必要もない。

 我が国のように人口が都市部に密集している環境ではむしろ副次被害を抑えることの方が必要だ。それが不可能であれば、火力支援に155ミリ榴弾砲を使用できないケースが多々出るだろう。

拡大中国・人民解放軍が採用しているノリンコ社のレーザー誘導方式の155ミリ砲弾=筆者撮影(SOFEX2012にて)

 このため精密誘導砲弾の導入が必要不可欠だ。だが、陸上自衛隊幕僚監部(陸幕)ではこのようなスマート砲弾導入の予定はない。自衛隊は国産兵器の口実として「我が国独自の環境に適合した装備が必要」を常套句にしているが、それが本気ならば、中国の人民解放軍ですら導入が始まっているスマート砲弾をすでに導入してしかるべきだろう。

 すでに人民解放軍はロシアが開発したセミアクティブ誘導砲弾、クラスノポールを参考にしたと見られる砲兵用精密誘導弾を実用化している。のみならず120ミリ迫撃砲用の精密誘導弾も導入している可能性が強い。陸自よりもはるかに進んでいる。

拡大中国・人民解放軍が採用しているノリンコ社のレーザー誘導方式の120ミリ迫撃砲弾=筆者撮影(SOFEX2012にて)

 また、ネットワーク化されたデジタル式の火器管制装置、また各砲の要員同士で会話ができる無線システムの導入も必要だ。これらのシステムと並行して敵の位置を把握し、精密誘導砲弾の終末誘導を行うためのUAV(Unmanned Aerial Vehicle 無人航空機)、偵察部隊、観測部隊、JTAC(Joint terminal attack controller 統合末端攻撃統制官)などが必要だ。

 JTACは戦闘機などからの火力支援だけではなく、ヘリコプター、更には砲兵などの火力支援を統合的にコーディネートする。また精密誘導弾の最終誘導も担当する。航空自衛隊(空自)は精密誘導爆弾、レーザーJDAMを導入したが、このような部隊がいなければその価値はない。砲兵用の精密誘導弾も同様である。これらの分野において陸自は大きく遅れている。途上国並みといってよい。

 いや我が国からODAを受けているヨルダンやトルコですら、このような部隊と装備を有している。

 このため自衛隊と米軍とは相互に火力支援を行うことは不可能である。米軍がこれを放置しているのは我が国ではそのような事態が起こる可能性が極めて低いと楽観しているためだろう。これに対してアフガンで肩を並べて戦っているNATO諸国は米軍と共同訓練を行い、高い相互運用能力を確保している。

 繰り返すが陸自はプリミティブ(原始的)過ぎて米軍と共同作戦が事実上行えない。ほとんどのメディアが伝えていないが、これは現前たる事実である。

 またこのような状態で戦争が起これば、

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筆者

清谷信一

清谷信一(きよたに・しんいち) 軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家。1962年生まれ。東海大学工学部卒業。03~08年まで英国の軍事誌Jane's Defence Weekly日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関、Kanwa Informtion Center上級顧問。日本ペンクラブ会員。著書に『専守防衛─日本を支配する幻想』『防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『自衛隊、そして日本の非常識』『ル・オタク フランスおたく物語』、共著に『軍事を知らずして平和を語るな』『アメリカの落日―「戦争と正義」の正体』『すぐわかる国防学』など。最新刊に『国防の死角――わが国は「有事」を想定しているか』。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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