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国会中継にだまされるな――審議拒否は続いている

薬師寺克行

薬師寺克行 東洋大学社会学部教授

 5月中旬に入って、やっと消費税率引き上げなどを審議する「社会保障と税の一体改革に関する特別委員会」が動き出した。18日には連休中に起きた大型観光バス事故を受けて衆院の国土交通委員会で参考人質疑が行われた。これだけを見ると国会で毎日、活発な議論が行われているかのように見える。しかし、現実は全く逆だ。

 4月20日に田中直紀防衛大臣と前田武司国交大臣に対する問責決議が参院本会議で議決されて以後、この2つの委員会以外、国会の日程などを決める議院運営委員会など一部を除くと衆参両院とも委員会はまともに開かれていない。国会は異常事態に陥っているのだが、消費税増税問題と賛否をめぐる民主党内の混乱が目くらましとなって国民の目に届いていないようだ。

 もちろん国会が止まっているのは自民党が全面的な審議拒否を続けているからだが、それが目立たないのは自民党の巧みさかもしれない。

衆院消費増税関連特別委で質問する自民党の伊吹文明元幹事長=2012年5月21日

 その一つがテレビ中継の活用だ。「社会保障と税の一体改革に関する特別委員会」は、先週になってやっと理事会で数日分の日程が決まった。国民注視の委員会だけにこうした特別委員会は予算委員会並みにNHKテレビで中継される。

 中継といっても全ての委員会質疑が放送されるわけではない。予算委員会同様、中継されるのは委員会審議の最初の2-3日間行われる「総括質疑」と、特定のテーマについて質疑をする「集中審議」だけだ。

 かつて予算委員会での集中審議は、通常国会で次年度の予算案の審議中は一度くらいしか開かれていなかった。

 ところが近年、次第に増えてきて、菅内閣の2011年の予算委員会は4回、野田内閣の今年は5回も開かれた。それだけ審議すべき特別なテーマがあるのかと調べると、「外交・安全保障問題」「社会保障制度」など、通常の委員会審議でも質問できそうなテーマが並んでいる。

 ではなぜ集中審議なのかといえば、どうやらその理由は「ねじれ国会」と「テレビ中継」にありそうだ。集中審議はだいたい総理大臣の出席とテレビ中継が条件になっている。野党議員はテレビカメラの前で総理大臣を相手に口角泡を飛ばす威勢のいい姿を国民に見せることができる、というより自らの選挙区の有権者に見せることができる。近年の国政選挙は組織票が減り候補者は浮動票を頼りにせざるを得なくなっていることもあって、少なからぬ国会議員が「テレビ出演」を票集めのための魅力的な舞台と考えているようだ。

 一方、今の国会は参院で野党勢力が過半数を占めるねじれ状態である。与党側はできるだけ円滑に予算を成立させたいがために「集中審議」を要求する野党に対して、腰を低くして受け入れてしまう傾向がある。野党にとって「審議ストップ」は数少ない抵抗手段だが、さすがにテレビカメラの前でやるとマイナスになるようだ。

 ではさほど高い視聴率が期待できない長時間の国会中継をNHKはなぜ文句も言わず引き受けるのだろうか。

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