2012年05月30日
この数字だけを見ると、年々過熱している就職活動の結果、卒業した学生の9割以上がきちんと内定を得て、4月から新しい人生のスタートを切っているかのように見える。
しかし、この数字にはとんでもないからくりがある。厚労省や文科省が悪意を持って意図的にやっているわけでもないだろうが、就職率を算出するための分子と分母が、現実離れした高い数字が出る仕組みになっているのだ。
公表された資料を見ると、2012年3月の大学卒業者数の推計値は55万人、このうち就職希望者数の推計値は38.1万人、そして就職(内定)者数の推計値は35.6万人となっている。93.6%という就職率は就職者数35.6万人を就職希望者数38.1万人で割った数字だ。
ここですぐ気がつくのは、卒業者数55万人と就職希望者数38.1万人の差の約17万人の学生はどこへ行ったのかということだ。つまりこの推計値では、まず卒業生の約3割の進路が不明なのだ。この点を厚労省や文科省が隠しているわけではない。資料にはきちんと「大学卒業者全体に占める就職者の割合は64.8%」と明記している。
93.6%という数字と64.8%という数字は、ずいぶん大きな違いだ。前者であれば大学関係者は「卒業生のほとんどが就職できるから、安心して就職活動をしなさい」と学生を指導できる。後者であれば「3分の1の学生は内定がもらえないのだから、必死で就職活動をしなさい」と言わざるを得ない。ところが私の気がついた範囲では64.8%という数字をきちんと報じたメディアはないようだ。
こうした数字の魔術を見破るために、「就職希望者」と「就職者」の定義を紹介しよう。
まず「就職希望者」だが、各大学は文科省の指導もあって、企業から内定をもらった学生と、就職を希望し会社訪問など就職活動をしている学生としている。従って、大学院や他の大学、海外の大学への進学者、教員や公務員試験を受けるため就職活動をしていない学生、家事手伝いなどをするとしているその他の学生は就職希望者に含まれない。そのため「卒業者」と「就職希望者」の数字に大きな開きが生まれるのだ。
「就職者」は期限付きも含めた正社員に内定した学生を指す。これには契約社員も含まれている。
厚労、文科両省は毎年10月1日、12月1日、2月1日、4月1日の4回、一部の国公私立の大学の一部の学生を対象に「就職状況調査」を実施している。全体の数字はこの調査の結果をもとにした「推計値」である。そして、興味深いことに「就職希望者」の数字は、時間とともに減っていくのだ。2011年10月から2012年4月までの4回の調査結果を見ると、卒業予定者数にはほとんど変化ないが、就職希望者数(推計値)は10月が42.5万人、12月が41.6万人、2月が40.6万人、4月が38万人で、10月からの半年間に合計4.5万人も減っている。
10月の時点で企業への就職活動をやっていた学生のうち4.5万人は一体、どこに消えたのだろうか。全員が「就職希望者」に含まれない大学院進学に転じたり、公務員希望になったりするわけでもあるまい。
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