2012年06月07日
フラでは、多数の子供と女性を含む108人が死亡した。2011年にシリアで反政府活動が始まって以来の最大の悲劇であった。フランスのオランド新大統領はシリアのアサド大統領の辞任を要求した。
安保理の討議においては、現地から国連停止監視団の指揮官が、死者の多くは大型の兵器の砲撃による犠牲者であると報告した。またフラでシリア政府当局により手足を縛られ至近距離から射殺された子供の遺体の映像が、ネット上にアップされて衝撃を引き起こしているという。
なお、砲撃している地域に、砲撃する側が兵員を送り込んで虐殺するというのはあり得ない、虐殺はシリア当局の仕業ではない、とアサド政権の支持者はイギリスのBBCなどで主張している。また他の支持者は、アフガンニスタン、チュニジア、リビアなどからの数百名が、フラに入ったと主張している。
さらにシリアの駐国連大使のバシャル・ジャーファリーは、虐殺は反政府勢力の仕業であるとして、シリア軍による虐殺との報道を「嘘の津波」と非難した。ピックアップ・トラックに分乗した200~300人の武装勢力が、フラの5か所で治安当局を攻撃した。戦闘は25日の金曜日の深夜の午前2時から午前11時まで続いた。虐殺は、こうした反政府の武装勢力の手によるものであるとの詳細な「事実」を同大使はメディアに対して語った。
犯人が誰にしろ、虐殺が起こったのは確かである。コフィ・アナン前国連事務総長の調停により、シリア政府と反政府勢力の双方が前に触れた停戦に同意し、停戦監視団が国連から現地入りしたものの、停戦違反が続発しているのが現状である。
基本の構図は2011年に騒動が始まって以来、変わっていない。政府側には反政府勢力を抑え込む力はなく、反政府勢力はアサド政権を打倒することができない。また国際社会には効果的に介入して流血を止める意図も能力も存在しない。
この国際社会の対応における合意形成の上で大きな阻害要因となっているのが、安保理でのロシアと中国の拒否権である。
両国は2011年、リビアへのNATO軍の人道的な介入を許容した安保理決議1973号の成立を阻止しなかった。しかし1973号を錦の御旗に掲げて介入したNATO軍は、反政府運動に立ち上がった市民の命を守ったばかりではなかった。リビア政府軍を爆撃し、カダフィ政権の崩壊を導き出した。最終的には反政府勢力の手でカダフィ政権が倒された。しかし、NATO軍の介入なしには起こりえなかった事態でもあった。
ロシアと中国は、NATO諸国の人道的介入という言葉に騙(だま)された格好であった。両国は、こうした事態の再現を許さないとの立場を明らかにしている。ロシアでは、「人道的介入」という名目が「政権転覆」という実質に変身させたNATOの外交を「リビアのシナリオ」と呼んで嫌悪している。シリアでリビアのシナリオが繰り返される可能性は極めて低い。
したがって外部からの介入によって、政府と反政府勢力の綱引きの構図が壊れることはないだろう。しばらくは、今のままの対立と対決の構図が続きそうである。
逆にシリアの混乱が外部に影響を及ぼしつつある。
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