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求められるシリア虐殺行為の調査と武器禁輸の制裁

土井香苗

土井香苗 国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表

 先日、ニコニコ生放送の「徹底解説『テレビが触れないシリアの真実』~子ども虐殺、紛争映像から何が見えるのか~(http://live.nicovideo.jp/watch/lv95018768)」に出演した。5月25日にシリアのホウラで起きた虐殺事件(少なくとも108名死亡、うち49名が子ども)を受けての番組で、出演者は、東京外国語大学の青山弘之先生、ジャーナリストの黒井文太郎さんと私という組み合わせだった。

 私にとっては初めてのニコニコ生放送への出演。ディレクターによると、こうした海外ニュースを取り上げることはかなりまれで、視聴者は10代から20代の若者の視聴が主体で「シリアがどこにあるかも知らない若者も多いので、そういう前提で話をしてください」とのことだった。

 番組開始前からこんな落胆させられる説明を受けた私は、視聴者数は伸び悩むのだろうと思っていた。ところが、1時間半の生放送を終えると、来場者数が2万1533人、コメント数が1万3511件。来場者が2万人を超えるのは、国内のテーマでも相当来場者が多い番組に該当するらしい。しかも、アンケートでは90%の視聴者が「良かった」と評価していた。この意外な結果に、当のディレクターが一番びっくりしていたかもしれない。

 反体制派の拠点ホムス市の北東約20キロに位置するホウラ地区。ニコニコ生放送のこの結果が示唆しているのは、このホウラで5月25日から26日かけておきた虐殺事件の映像―――特に、銃で至近距離から即決処刑された子どもたちの遺体の映像―――は、すべての視聴者にとってあまりに衝撃的だったということではないだろうか。

 シリアで、市民の処刑を含むこうした重大な人権侵害が起きたのは初めてではない。ヒューマン・ライツ・ウォッチも現地に調査員を送り、たとえば、イドリブで少なくとも民間人95人の民間人が殺害された事件(http://www.hrw.org/ja/news/2012/05/02)や、ホムスやイドリブで合計100人以上の民間人が即決処刑された数々の事件(http://www.hrw.org/ja/news/2012/04/09-1)などを調査、記録、発表してきた。

 しかし、このホウラ虐殺事件は、4月12日にアナン国連・アラブ連盟合同特使の仲介で成立した「停戦」合意に基づき現地入りした国連の監視団が、実際に大量の遺体を確認した初めての事件であり、国際社会に改めて大きな衝撃を与えたのだ。

 しかし、この国連仲介の「停戦」は名ばかりの状態が続いてきた。地元シリアの人権団体などによると、「停戦」成立以降だけでも1500人近くが死亡したとしている。

 虐殺の翌日26日に、複数の村落から成るこのホウラ地区を訪れた国連監視団は事件を直接確認。「残虐な悲劇」だと非難した。潘基文(パン・ギムン)国連事務総長とアナン特使は連名で「無差別かつ圧倒的な武力行使を伴う残忍な犯罪で、目に余る国際法違反。シリア政府は約束を破った」とアサド政権を非難する声明を出したものの、シリアのアサド大統領は政府の関与を否定。外国による陰謀を実行している「テロリスト」が攻撃を続けていると主張している。

 果たして、このホウラ虐殺を行ったのは、政府側なのか、反政府側なのか。ホウラでの虐殺の一報が入るや、私たちヒューマン・ライツ・ウォッチも、すぐにホウラの住民や生き残った人々、地元活動家らから聞き取りを行った。

 聞き取り調査に対し、人びとは、口々に、シリア軍が5月25日に同地区を砲撃し、武装した軍服の男たちが郊外の家々を襲撃して家族全体を処刑して回った、と回答した。目撃者たちは異口同音に、その「武装した男たち」は政府支持派だった、ただ、シリア軍兵士だったのか親政府民兵(「シャビーハ」と呼ばれる)だったのかは分からないと言った。つまり、我々が手にした証拠は、政府支持派部隊による犯行を示唆していたのだ。

 人びとの話はこうだ。5月25日の正午に、ホウラ地区で一番大きな町タルドウ(Taldou)にデモ隊が集結したが、その後、シリア軍がホウラ地区の住宅地各地に集中砲火を加えた。

 ある目撃者は、午後2時ごろ、軍の検問所の兵士たちが近くにいたデモ隊を解散させようと発砲した、負傷者や死亡者が出たかどうかは分からない、という。ホウラ出身のある活動家は、シリア軍の検問所からの発砲に対し、反政府勢力の武装メンバーが検問所への攻撃で応え、軍がそれに応えて住宅地への砲撃を開始した、という。その後、前述の無差別の処刑が行われた(個々の証言の一部は本文末尾に紹介していますのでご覧下さい)。

 スンニ派が圧倒的多数を占めるホウラ地区は、アラウィ派とシーア派の村々に囲まれるようにして位置しており、昨年来、宗派間の緊張が高まっていた地区だった。今回の虐殺に政府関与はないときっぱり言い放つシリア政府は、軍事司法委員会を設置して調査を行った、という。しかし、虐殺への関与を疑われている軍自体が行った調査が信頼できるはずはない。中立で公正な第三者が虐殺事件の調査を行う必要がある。

 国連は、2011年8月の国連人権理事会会合で、シリアについての事実調査委員会(Commission of Inquiry)の設立を決議し、「人道に対する罪」に該当する犯行が行なわれているかなどを調査する権限を与えた。

 これに対しシリア政府は、同調査委員会がシリアに入国して現地調査を行うことを拒否し続けたが、同委員会は、国外に逃れた避難民等223名に対する聞き取りを含む調査結果に基づき、同年11月には、シリアで起きている事態が「人道に対する罪」に該当すると結論付けた(http://www.un.org/News/briefings/docs/2011/111128_Syria.doc.htm)。

 ホウラ虐殺が国際社会の前に明るみにでた今こそ、日本政府を含む国際社会はシリア政府に対し、国連調査委員会によるホウラ虐殺事件の現地調査を強く求めるべきである。さらに、こうしたシリアの事態は、国際刑事裁判所(ICC)にて捜査・訴追されるべきである。

 そのため、国連安全保障理事会は、シリアの事態をICCに付託するよう決議しなくてはならない(シリアはICCの加盟国でないので、シリアの事態に対しICCが管轄権を得るためには安保理決議が必要)。安保理のあらゆる場面でシリアの肩を持ち続けているロシア政府の責任は重い。ロシア政府は、これ以上の非人道犯罪にブレーキをかけるため、ICC付託に今すぐ同意すべきである。

 現在のシリアでは、子どもを処刑しようが拷問しようが、どんな残虐行為をはたらいても、処罰される危険は事実上ない。このような現実を前に、残虐行為を止めるブレーキはなく、残虐行為が繰り返されている。この現実の中で、ICCは、シリアで続いている残虐行為を指揮・認容している高官たちなど残虐行為の責任者(政府側、反政府側を問わない)を捜査・訴追するのに最適の法廷である。フランス等が提起しているシリアの事態のICCへの付託に対し、ICCの最大のドナー国であり法の正義へ支持を繰り返し表明してきた日本政府にも支持表明をしてほしい。

 また、民間人に対する「人道に対する罪」が続いているにもかかわらず、残念ながら、ヒューマン・ライツ・ウォッチなどが提唱してきた国連安保理での武器禁輸制裁(http://www.hrw.org/news/2011/08/09/un-syria-escalates-repression-after-security-council-statement)は採択されていない。ロシアや中国は武器禁輸に同意すべきである。

 しかし、武器禁輸制裁が発動されていない現状であっても、1年以上にわたり民間人犠牲が発生し続けているこの事態に至っては、シリアに兵器を供給しているロシア国営武器輸出企業ロソボロンエクスポート社(Rosoboronexport、ロシア国営武器輸出公司)などの行為は、「人道に対する罪」の幇助とみなされる可能性がある。つまり、犯罪の共犯者として将来刑事責任を負う可能性がある。

 世界中の企業・政府は、人道に対する罪の共犯となる可能性があるこうした企業とは今後新たな取引を行わない決断を行うべきだ。ちなみに、米国政府もロソボロンエクスポート社との10億ドル近い契約があり、最近、17名の上院議員と米国の市民団体が協力して、米国政府に対し同契約から撤退するよう求めている。

 2007年から2011年にかけてのシリアの主要通常兵器輸入の78%を供給しているロソボロンエクスポート社は(ストックホルム国際平和研究所調べ)、今も、シリア政府との関係を絶つことを公けに否定している。

 ロシア政府と中国政府が、国連安全保障理事会でシリア政府の肩を持ち続け、その間にも実に多数の人命が失われたことは許されることではない。日本を含む各国政府は最大限の圧力でロシア政府等に対し協力を求めるとともに、各国の政府や企業は、ピレイ国連人権高等弁務官も求めているICC付託への意見表明や人道に対する罪に加担しない企業活動など、できることを最大限行っていくべきである。

 子どもを含むシリア国民のこれ以上の犠牲、そして紛争の地域への拡大を防ぐため、国際社会に残された時間は少ないのだから。

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筆者

土井香苗

土井香苗(どい・かなえ) 国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表

国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表。1975年生まれ。東大法学部在学中の1996年に司法試験に合格後、4年生の時、NGOピースボートで、アフリカの最貧国エリトリアへ。同国法務省で1年間、法律作りを手伝うボランティア。98年に大学卒業、2000年に司法研修所終了。著書に「“ようこそ”といえる日本へ」(岩波書店 2005年)など。

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