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自衛隊の情報感度と特殊部隊(上)――練度の維持と中東の情報収集は大丈夫か?

清谷信一

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 5月7~10日にわたってヨルダンの首都アンマンで、隔年で行われている特殊部隊をテーマとした軍事見本市SOFEX(Special Operations Forces Exhibition and Conferences)が開催された。筆者はここ8年ほどこの見本市の取材をつづけており、過去ヨルダン軍の特殊部隊も取材してきた。

SOFEXに合わせた特殊部隊の競技会には多数の国から参加がある=筆者提供

 この見本市はコンファレンスや各国の特殊部隊がその技術を競い合う競技会なども開催されるが、いまだかつて自衛隊の特殊部隊の参加はない。防衛省からのデリゲーション(代表団)は、隣国シリアの駐在防衛官が式典に参加する程度だ。これはアブダビで行われている世界最大級の軍事見本市、IDEX(International Defence Exhibition)でも同様だ。

 対して中国は今回のSOFEXに20名を超える過去最大の代表団を送り込んでいる。また競技会には人民解放軍空軍の特殊部隊が参加した。

 実は特殊部隊は情報収集と非常に密接に関わっている。こんなことで、自衛隊の特殊部隊の練度の維持、そして中東での情報収集は大丈夫なのか。

 ヨルダンの情報機関はアラブ世界でもっとも優秀だ。その情報機関と緊密な関係にあるのが軍や国家憲兵隊、警察などの特殊部隊だ。両者は極めて強い関係にあり、人事交流も盛んだ。日本以外ではこのような関係は常識だ。

現地要人と談笑する中国の人民解放軍大将=筆者提供

 特に軍隊の特殊部隊は偵察や敵地への潜入、国内のテロ組織の監視なども手がけることが多く、情報収集組織としての性格が強い。

 ハリウッド映画の影響か、一般には特殊部隊といえばやたらに銃を撃ちまくるイメージがあるが、これは正しくない。実戦での特殊部隊の任務は隠密性が要求される作戦がほとんどで、激しい銃撃戦になるということは任務の失敗を意味する。

 例えばかつて、アンゴラ侵攻が盛んだったころの南アフリカ軍特殊部隊、通称レクスコマンドウは数名の部隊で敵の支配地域内に80キロ以上の装備を空挺降下し、以後3カ月にわたって偵察・情報収集を行ってきた。彼らは昼間に眠り、活動は主に夜だけ。その間に一発の銃弾を撃つこともない。銃撃戦になればそのミッションは失敗である。

 また特殊部隊の狙撃手は単に射撃がうまいだけでは務まらない。敵に見つからないための偽装の技術を凝らし、注意深くターゲットを捕捉し、その周囲の状況を適切に判断する能力が必要だ。

 彼らは通常数名のチームで活動するが、何日も何週間も同じ観測所に留まり、敵情を視察し、一発も撃つことなくひたすら敵情を味方に通信するということも多い。特殊部隊の情報収集は極めて地道で、かつ専門的な技能が要求される。

 ソ連崩壊後、地域紛争や非対称戦が多発しているが、このような作戦には特殊部隊の投入が有用だとの認識が列国では広がり、特殊部隊が増強されてきた。米国の最新のQDR(Quadrennial Defense Review、国防計画の見直し)では特殊部隊を陸海空海兵隊に続き、「第五の軍種」と位置づけている。

中東最大、最新を誇るヨルダンの特殊部隊訓練施設=筆者提供

 ヨルダン軍は特殊部隊に大きなウエイトを置いている。ヨルダン軍では統合特殊部隊コマンドJSOCOM)の下に、特殊部隊旅団、レンジャー旅団、特殊作戦航空旅団の3個旅団、人員1万人以上の師団規模の特殊部隊を擁している。装備も先進国に負けないレベルのものを使用している。この背景にはアブゥドル二世国王が、かつて即位以前の軍人時代にSOCOMの司令官だったことと無関係ではない。

 国王は英米で教育を受け、英士官学校を卒業後、英軍での勤務経験もあり、パラシュート降下、攻撃ヘリや大型機の操縦までこなす(政府専用機のエアバスも自分で操縦することもあるらしい)。このため特殊部隊に対する高い見識があり、いち早く特殊部隊の増強、育成に努めてきた。それは大きな成功を納めてきた。

 ヨルダンは中東では非常に政治的に安定し、治安もいい。このため海外からの投資も多く、工業化も進んでいる。アンマンはこの10年ほど建設ラッシュで、投資銀行の看板もよく見かける。これは情報機関、特殊部隊が優秀であり、極めて高い情報収集能力を有しているからだ。彼らは国内外で活動しているテロリスト達の情報を詳細に把握し、必要とあらば彼らを殲滅してきた。

 以前のSOFEXでも、列席する国王を狙ってのバイオテロが計画されたが、

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