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泥沼の人材難に陥る、民間人・森本敏氏の防衛相起用

谷田邦一 朝日新聞専門記者(防衛問題担当)

 防衛部門の国務大臣に戦後初の民間人が就任し、「サプライズ人事」として話題を集めている。野田佳彦首相が防衛相に起用した森本敏・拓殖大大学院教授のことである。筆者も何度かお目にかかり、森本氏がもつ安全保障分野の深い知見と人脈には敬意をもってきた。しかし、自公政権で防衛相補佐官を務めた実績があるとはいえ、いきなりの防衛相就任には驚かされた。そんな唐突感もあって、世間の批判の的になっている。

 森本氏は、自民党国防族のブレーンを長く務め、日米同盟を重視する保守の論客だ。各種のメディアに幅広く登場し、難解な防衛問題をわかりやすく解説したり、政府の考え方を穏やかな語り口で説明したりする持ち味で知られる。

 政治的に微妙な問題にも大胆な発言を重ねてきた。たとえば、日米同盟を深化させるため、政府の憲法解釈を超えて集団的自衛権の行使を認めるよう主張したり、イラクなどの平和維持活動で自衛隊が同盟国並みの軍事的貢献をするよう求めたりした。

 こうした発言は、学者や研究者に保証されるアカデミック・フリーダムの範疇にあり、就任の障害にはならないだろう。政治家が信条を変えるのとは事情が違う。ご本人も記者会見(6月4日)で「大臣として、集団的自衛権の考え方を変更するという考え方は毛頭ありません」と持論の封印を約束している。

 では、何が問題なのか。やれ「民間人が国防の責任を負えるのか」「文民統制上の問題はないのか」といった批判や疑問が今も根強い。国会などの場で質問攻めにあうのは避けられそうにない。

 1つずつ考えてみよう。民間人の起用に法的な問題はない。国会議員以外の国務大臣は憲法(66条、68条)で認められている。戦後の吉田内閣以来、民間人閣僚はすでに20人を超える。国の危急時に登用された逸材もいれば、知名度だけを内閣の人気浮揚に利用された人寄せパンダもいた。

 具体名をあげれば、外相では3人(岸内閣の藤山愛一郎氏=元日商会頭、大平内閣の大来佐武郎氏=元外務官僚、小泉内閣の川口順子氏=元通産官僚・サントリー常務)、総務相も2人(安倍内閣の増田寛也・元岩手県知事、菅内閣の片山善博元鳥取県知事)いる。竹中平蔵・慶応大教授の経済財政政策担当大臣は記憶に新しく、川口氏にいたっては外相のほか森内閣で環境庁長官も務めた経験がある。防衛部門の大臣だけは特別という理屈は成り立たない。

 文民統制についても、政府の説明は説得性がある。藤村修官房長官が「自衛隊の最高指揮監督は首相にある」と指摘し、「自衛隊に関する法律、予算は国会の審議を経て成立する」と説明した通り、議院内閣制をとる日本では政治の責任は内閣が負う仕組みである。防衛相が単独で「暴走」できる余地はない。

 大統領制をとる米国も、軍隊の最高指揮権は大統領自身にあり、国防長官として過去に何人もの民間人を登用してきた。クリントン政権の1990年代、北朝鮮の核開発疑惑問題に取り組んだペリー長官はスタンフォード大教授だったし、ブッシュ政権やオバマ政権の同長官としてイラク問題などで実績を残したゲーツ氏はCIAの分析官の出身だった。古くは、フォード自動車の社長の座を捨ててケネディ政権の国防長官になったマクナマラ氏もいる。ペリー、ゲーツ両氏が名長官と評価されたのに比べ、マクナマラ氏は、深くベトナム戦争に介入し、泥沼へと導いた剛腕な戦争指導者として汚名を引きずっている。

 要は、選ばれた人物の考え方に偏りがなく、その能力に信頼がおけるかどうかなのだと筆者は考える。問うべきは偏りや能力の点において、森本氏が世間の期待に耐えうるかどうかだろう。結論から先に言えば、若干の不安は隠せない。

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筆者

谷田邦一

谷田邦一(たにだ・くにいち) 朝日新聞専門記者(防衛問題担当)

1959年生まれ。1990年、朝日新聞社入社。社会部、那覇支局、論説委員、編集委員、長崎総局長などを経て2013年4月から社会部専門記者(防衛問題担当)。主要国の防衛政策から最新兵器、軍用技術まで軍事全般に関心がある。防衛大学校と防衛研究所で習得した専門知識が、現実の紛争地でどのくらい役立つのか検証取材するのが夢。

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