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【北大HOPSマガジン】「リオ+20」に賭ける韓国と逆行する日本

鈴木一人 鈴木一人(北海道大学公共政策大学院教授)

 ちょうど、「リオ+20」(国連持続可能な開発会議)が開催される一週間前に韓国で行われた、韓国開発院(KDI)とカナダのグローバル・ガバナンス・イノベーション・センター(CIGI)共催のGlobal Governance Gapsという会議に出席する機会があった。ここではエネルギー・環境・開発と「リオ+20」で取り扱われる問題をテーマとして議論してきたこともあり、この「リオ+20」に向けた韓国と日本の姿勢の違いについて論じてみたい。

■世界の知的リーダーシップを獲得しようとする韓国

 日本からは玄葉光一郎外務大臣が出席した「リオ+20」であるが、韓国は李明博大統領が出席し、環境問題への関心の高さを示した。だが、ただ単に政治的に目立つために出席したわけではなかった。韓国は開催国のブラジルとともに「リオ+20」の共同議長の座を獲得し、会議の準備会合から積極的に関わってきた。また、韓国のイニシアチブで「グローバル・グリーン成長・パートナーシップ」と呼ばれる環境技術支援を中心としたODAの枠組みを設定し、「グリーン成長」をキーワードにした、新たな環境問題への取り組みのパラダイムを作ろうとしている。

 その中核となるのが「グローバル・グリーン成長研究所(GGGI)」(http://www.gggi.org/)である。このGGGIは元々韓国が政府機関として2010年に設立した研究所であるが、当初から国際的なシンクタンクとして位置付けており、事務局長を雑誌「The Economist」で公募するという力の入れようであった。所長は元首相であるハン・スンス(Han Seung-Soo:韓昇洙)で、事務局長は世界経済フォーラムの事務局長などを歴任したリチャード・サマンス(Richard Samans)である。李明博大統領は「リオ+20」の総会で、このGGGIを国連の専門機関とすることを提案し、韓国で初めての国際機関の誘致に成功したのである。

 たしかに「リオ+20」の成果は乏しく、それだけ見れば韓国の熱意は空振りに終わったかのように見える。しかし、韓国は「グリーン成長」を次世代の環境問題への取り組みのパラダイムとして位置付け、それを国際的に認知させ、エネルギー問題、環境問題、そして途上国の開発を一気に解決し、先進工業国と途上国の間に横たわる深い溝を埋めていくためのイニシアチブを取ろうとしているのである。

■グリーン成長とは何か

 この韓国が進めようとしている「グリーン成長」という言葉は、日本ではまだ馴染みがないが、徐々に国際的に認知度が高まっている言葉である。グリーン成長とは、簡単に言えば、環境を保全しながら経済成長を可能にするための生産性の向上、イノベーション、新市場の開拓、投資の促進を導出する経済戦略である。

 これまで環境保全と経済成長はトレードオフの関係にあると考えられてきたが、その発想を逆転し、環境保全をすることで経済成長を促すことを目指す戦略である。これはOECDから2011年に発行されたTowards Green Growth(日本語抄訳はhttp://www.oecd.org/dataoecd/32/63/48010968.pdf)で広く知られるようになった概念である。

 このグリーン成長という概念は、まだ途上国では馴染んでおらず、今回の「リオ+20」では十分な信任を得るには至らなかったが、韓国は国家戦略としてグリーン成長を掲げ、途上国外交の中軸としてODAなどを絡ませながらグリーン成長の概念を普及していくことを目指しており、いずれこの概念も馴染んでくるものと思われる。

■「リオ+20」に逆行する日本

 私が出席したGlobal Governance Gapという会議は、韓国とカナダが「リオ+20」に向けて、グローバル・ガバナンスの陥穽を見出し、それを埋める提案を考えることを目的とした会議であった。エネルギー問題に関しては、化石燃料の需給バランスをいかに国際的に管理し、その負担を少なくするためのグローバル・ガバナンスの政策イノベーションを議論し、開発問題については持続可能な開発目標(SDGs)について議論した。

 私は、福島原発事故の民間事故調で原子力の安全規制について担当したこともあり、その調査の概要を報告し、そのうえで原子力安全のグローバル・ガバナンスについての提言を求められた。というのも、グリーン成長の一つの手段として、温室効果ガスの排出量が少ない原子力発電の可能性を考えておく必要があるとの認識が主催者側にあったからである。

 現時点では、原子力安全に関わる分野については各国の規制が中心であり、国際原子力機関(IAEA)の役割も限られていることや、安全保障にも関わる技術であるため、各国の主権による障壁が高く、いきなりグローバル・ガバナンスの仕組みを作ることは難しい。しかし、福島原発事故を受けて、原子力安全に対する国際的関心が高まっているため、グローバルなピア・レビュー(相互審査)を通じて、原子力安全の質を高めることから始めるべきであるという趣旨の報告をした。

 その時の質疑は、非常に難儀するものであった。というのも、出席者の多くは環境問題やエネルギー問題の専門家であったが、彼らの関心は福島原発事故以降、原発を動かさずにどうやって電力供給をしているのかという点に集中したからだ。 ・・・ログインして読む
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筆者

鈴木一人

鈴木一人(すずき・かずと) 鈴木一人(北海道大学公共政策大学院教授)

1970年、長野県生まれ。立命館大学国際関係学部中途退学、同大学院国際関係研究科博士後期課程退学後、英国サセックス大学ヨーロッ パ研究所博士課程修了。筑波大学大学院人文社会科学研究科准教授などを経て、2008年から北海道大学公共政策大学院准教授、2011年から教授。現在はプリンストン大学国際地域研究所客員研究員。専攻は、国際政治経済、ヨーロッパ研究、宇宙開発政策など。著書に『宇宙開発と国際政治』(岩波書店、第34回サントリー学芸賞受賞)、共著に『グローバリゼーションと国民国家』(青木書店)、編著に『EUの規制力』(日本経済評論社)など。

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