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野党と「協調」するしかない野田政権の脆さ

櫻田淳 東洋学園大学教授

■消費税増税法案衆議院通過は、一つの「山」に過ぎない 

 六月二十六日午後、社会保障・税一体改革の中核を成す消費税増税法案は、賛成三六三、反対九六(内、民主党造反組五七)、欠席・棄権一七の結果で衆議院本会議で可決され、参議院に送られた。民主党「分裂」の瀬戸際と語られているけれども、筆者には、それが些末なことのように映る。

 此度の「造反」劇を主導した小澤一郎(元民主党代表)は、野田佳彦(内閣総理大臣)を民主党代表の座から引き摺り下ろし再び党運営の主導権を握るのでなければ、民主党から離れたとしても先々の展望を開くことはできない。消費税増税法案反対九六という数字は、他面では、小澤が自ら志向する政策を実行する条件が、もはやないという事実を示しているのである。

消費増税法案の可決後、衆院本会議場を見つめる野田佳彦首相(左)と閣僚たち=2012年6月26日

 片や、野田は、どのような政策志向を持とうとも、特に自民、公明両党を含む野党との「協調」を図らなければ、何も動かすことができない。民主党内造反五七という数字は、野田における対野党「協調」への傾斜に拍車を掛けるであろう。

 無論、消費税増税法案は、「参議院に送られた」段階に過ぎない。たとえば、公債特例法案は、懸案としての重要度が消費税増税法案に比肩するものあろうけれども、それもまた、衆議院審議の段階である。次の衆議院議員選挙実施の前提となる選挙制度の是正もまた、緒に付いたばかりである。

 こうした懸案の処理に野田が本腰を入れようとするならば、特に自民、公明両党との「協調」を一層、進める必要がある。「時事通信」最新世論調査(六月八‐十一日実施)の結果が示した野田内閣支持率、二四・三パーセント、民主党支持率、八・一パーセントという数字は、「どのような政策を手掛けるか」ということの中身を決める主導権が、もはや野田の手にはないという現実を示している。

 もし、自民、公明両党が早期の衆議院解散・総選挙の要求に拘泥しなければ、野田を事実上の「傀儡」に仕立て上げる体裁で自ら望む政策志向を野田に踏ませ続けるという半ば狡猾にして悪辣な対応も、二〇一三年夏の衆議院議員任期満了まで採られるかもしれない。

 故に、野田の執政が続けば続く程、民主党の「政権公約」における空洞化が世に印象付けられる。野田の政治上の足場は、それが民主党内にも世論にもなく野党との「協調」にしかないという意味では、誠に脆(もろ)いものになっているのである。

 もっとも、今期通常国会は、既に二ヵ月の会期延長が決しているので、少なくとも二ヵ月の間、野田における特に自民、公明両党との「協調」の行方が、どのようなものになるかは注視に値しよう。この「協調」を破る挙に野田が出れば、自民、公明両党が衆議院に内閣不信任案、参議院に問責決議案をそれぞれ提出することで応ずるであろうというのは、誠に平凡な予測である。

 これに加えて、今後の野田の執政の行方を占う上では、次の二つの点は注意を払っておく必要がある。

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