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国有化で「尖閣問題」は解決しない

藤原秀人 フリージャーナリスト

 野田佳彦首相が7月7日、沖縄県の尖閣諸島を政府が買い上げるという方針を明らかにした。この日は、日中戦争の発端となった盧溝橋事件の75周年にあたった。中国では多くの人たちが日本の侵略に思いを致す日である。

 そんな日に出た野田首相の尖閣国有化発言は、当然、中国の大きな反発を呼んだ。中国国営新華社通信は同夜、「誰であろうと中国の神聖な領土を売買することを許さない。中国は引き続き必要な措置を講じ、断固主権を守る」との中国外務省談話を配信した。

 野田首相は「尖閣を平穏かつ安定的に管理するにはどうしたらいいのかという観点から」尖閣国有化を検討するとの姿勢だ。翌日の朝日新聞の社説は「尖閣の国有化 緊張和らげる一歩に」という題で「国有化すれば、中国などの反発は必至だ。しかし、長い目で見れば、政府の管理下、いらぬ挑発行為を抑え、不測の事態を避けるのが目的だ」と述べて、中国には冷静な対応を求めた。国有化の方針を支持したといえる。

 一方で、野田首相は「尖閣は歴史上も国際法上も我が国固有の領土であることは間違いないし、有効に支配をしているので領土問題、領有権の問題は存在していない」とも述べている。

 領土問題や領有権の問題が存在しないのならば、なぜ尖閣の現状を変えなければならないのか。藤村修官房長官は9日の記者会見で、尖閣国有化のねらいについて「尖閣諸島の平穏で安定的な維持管理、継続だ。(地権者からの)賃借契約は1年ごとということもあり、より安定的なものにするという考え方は当然ある」と述べた。

 東京都の石原慎太郎知事が4月、ワシントンで尖閣諸島購入計画を明らかにする前、民主党政権は尖閣の国有化については、可能性すら言及していなかった。

 それが、石原氏の発言を受けて、野田政権は国有化の可能性を示唆し、ついに国有化の方針を打ち出すことになった。とても熟慮を重ねたとは思えない性急さである。尖閣諸島のある石垣市の中山義隆市長や、沖縄県の民意を代表する仲井真弘多知事に相談した形跡もない。基地問題でもそうだが、政権は尖閣でも沖縄の民意を軽視していると言わざるを得ない。

 尖閣諸島の魚釣島を含む5島のうち、野田政権が購入を検討しているのは、国有の大正島をのぞく民有4島のうち、魚釣島と南小島、北小島。この3島は、政府が賃貸契約をしている。

 これら3島が国有化されると尖閣沖の波は静まるのだろうか。

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