若林秀樹
2012年08月07日
2011年は19年ぶりに死刑執行がなかったが、今年に入って「死刑の在り方についての勉強会」を突然打ち切り、死刑執行を立て続けに行ったことは、死刑廃止を視野に置いた民主党の方針「終身刑の検討を含む刑罰の見直し」の変更であり、政府の死刑存続に向けた強い意志表示と受け止められても仕方がない。
滝法務大臣は、同日の会見で「冤罪の恐れがない限り、裁判所の結論は尊重しなければならない」と述べたが、誰を死刑執行の対象とするのか、その基準が全く明確ではない。以前、あるメディアが情報公開請求で執行命令書等の関連文書の開示を求めたが、対象の理由が書いてあると思われる部分が、すべて黒塗りで非開示となっていた。
処刑された服部純也氏(40)は、一審では幼少期の劣悪な生活環境等が考慮され無期懲役だったが、控訴審において死刑、最高裁で上告が棄却され、事件から6年で死刑が確定した。松村恭造氏(31)は、二審で自ら控訴を取り下げ、事件からわずか1年で死刑が確定した。日本には、国連の死刑者権利保護規定が求めるような、死刑判決に対して自動的に上訴する仕組みがない。
今回のように、たとえば犯した罪を反省し、罪を早く認めた人から、冤罪の恐れがないという理由で執行することは、法の公平な適用という観点から問題ではないか。今回の執行は、執行対象者を選ぶ基準が不明確な中で、審理を徹底的に尽くすべき若い二人の更生の可能性を否定した執行という意味でも問題は大きい。
さらに大臣は、同会見で「今すぐに、廃止に向かう状況にはない」と述べた。しかしそれは廃止に向かう努力をしている者が言う言葉である。「勉強会」を一方的に打ち切り、政務三役だけの閉ざされた議論をしているのでは、民主党の「死刑存廃の国民的議論を行う」との方針に著しく反し、自己矛盾そのものである。
死刑制度を取り巻く環境の中で、最大の問題点の一つは、
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