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ミシェル・オバマの先制ノックアウト・パンチ

高橋和夫

高橋和夫 放送大学教養学部教授(国際政治)

 9月4日、米国ノースカロライナ州のシャーロットで民主党大会が始まった。初日のハイライトは、大統領夫人のミシェル・オバマの演説であった。ネットで生中継を見た。

 先週の共和党大会ではロムニー大統領候補夫人のアン・ロムニーの演説が注目された。人間的な温かみが伝わらないとされるロムニー候補の暖かな側面を語るという役割であった。優等生のスピーチであり、可もなければ不可もない出来であった。その後の副大統領候補のポール・ライアンも大統領候補のロムニーも、演説に関しては、並みではあるが、強い印象は残さなかった。

 ロムニー夫人は、大金持ちだが普通の人間であることを強調する必要に駆られていた。というのはロムニー夫妻も人並みにお金の苦労をしたというのを説明するのに「困って株券を売った」ことがあると告白して、失笑を買った経験があったからだ。貧しい人間は、そもそも株など持っていないとは、想像もつかなかったのだろうか。

 さてミシェルのスピーチはどうだったか。

 ロムニー夫人に比べると、ミシェルには、普通の人間であることを強調する必要はなかった。自らの家族が、いかに苦労して自分を大学に進学させてくれたかを淡々と語ればよかった。そしてバラク・オバマも同じような境遇であった。母親が女手一つで教育を受けさせている。

 歩んできた人生を振り返れば、そのままでドラマである。二人の人生そのものがアメリカン・ドリームである。庶民を演じる必要がないのが、ミシェルとバラク・オバマ夫妻の強みである。

 二人の出会いや学生ローンに追われながらの新婚生活の時代から説き起こし、ミシェルは現在のオバマへと話を続けた。そのメッセージは、当然ながらバラク・オバマという人間の素晴らしさである。大統領になってもオバマは変わっていない。弱者を思いやる姿勢や、子供との時間を大切にする姿は、変わっていない。人間バラク・オバマを高らかに歌い上げて、この人物に仕事を続けさせよう、と結んだ。

 自らの体験と確信に基づいての言葉には、静かな説得力があった。最後には

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